門番見習いと棘だらけの白狼

北門に白狼が現れた、と鐘が鳴った。

城壁ほどもある白い獣を見て、騎士たちは一斉に槍を構えた。白狼は古い伝承では国を選ぶ神獣、怒らせれば一夜で街を凍らせる災厄でもある。

「近づくな! 目を合わせるな!」

門番見習いのリィナも下がれと怒鳴られた。採用されてまだ七日。剣の腕が足りず、今日も門扉の泥を落とす仕事しか任されていない。先輩たちは、真っ先に逃げても誰も責めないと言った。

だが、白狼は牙を見せているのではなかった。荒い息の合間、左の前足だけを地面につけずにいる。

リィナは槍を置いた。

「おい、何をしている!」

「痛いだけです」

白狼の金色の目が細くなる。周囲では殺気だと悲鳴が上がったが、リィナには、痛みをこらえる子どもの顔に見えた。

彼女は膝をつき、手袋を外して掌を見せた。白狼の鼻先が近づく。ひと息で髪が後ろへなびいた。噛まれなかったので、そっと浮いた足に触れる。分厚い肉球の間へ、黒鉄棘が深く刺さっていた。城外の盗賊よけに撒かれたものだ。

「ごめんね。抜くよ」

返事の代わりに尾が一度、土を打った。

リィナは小刀で棘の返しを削り、まっすぐ引き抜いた。血を水筒の水で洗い、自分の新品の襟巻きを裂いて巻く。それは初任給で買った、冬を越すための一枚だった。先輩が「もったいない」と叫んだが、リィナは結び目を緩めなかった。白狼は一度も唸らず、ただ彼女の肩の匂いを嗅いでいた。

棘が地面へ落ちた途端、白狼は四本の足で立った。騎士団長が「神獣よ、我が王に従え」と進み出る。

白狼は団長を見もせず、リィナの前で伏せた。

額が彼女の胸元へ触れ、淡い銀の紋が手首に浮かぶ。神獣契約。門番見習いを笑っていた者たちが、息を呑んだ。城門の魔法板には、彼女の役職が《北境守護官》へ書き換わっている。団長より上の、建国以来空席だった名だ。

「私で、いいの?」

白狼は当然だと言うように鼻を鳴らし、その巨大な頭を彼女の膝へ預けた。腰が少し沈むほど重いのに、雪色の毛は陽だまりを抱いたように温かかった。