門税は売れた後で

領都ハルメの朝市には、空いた台が十九もあった。

 原因は門で徴収される「籠税」だ。中身が売れようが腐ろうが、籠一つにつき銅貨三枚。卵を十二個しか持たない老婆まで同じ額を取られるので、農家は門の外で引き返していた。

「税を払えない者に商いの資格はない」

 古参の徴税吏がそう言った日、新任代官エルナは市場の鐘を止めた。

 彼女が掲示板に書いた新規則は、驚くほど短かった。

 一、売上が銅貨十枚までは無税。

 二、十枚を超えた分の二十分の一を、閉市後に納める。

 三、集まった金は市場の雨屋根だけに使い、毎夕、収入と支出を板に記す。

「売れた後で、しかも儲けの一部だけ?」

 卵籠を抱えた老婆が何度も読み返す。

「はい。門を通るだけでは、一枚も取りません」

「帳簿を見ても?」

「誰でも。私の給金も別だと書いてあります」

 古参吏は鼻で笑った。

「そんな甘い税では、屋根など百年かかる」

 だが初日、空いていた台に農家が戻った。二日目には猟師が干し肉を並べ、三日目には粉屋が小麦袋を運び込んだ。売上が増えたぶん、二十分の一でも以前より多く集まった。

 板には数字が一行ずつ増えた。エルナは屋根の図まで描き、集まった銅貨一枚ごとに瓦を一枚塗った。子どもでも、あと何枚で雨漏りが止まるか分かった。徴税吏の懐へ消える余白はなかった。

 新しく来た行商人にも、常連と同じ規則の写しが一枚ずつ渡された。裏口の特別料金はなかった。

 十日目、雨が降った。

 エルナが屋根職人を呼ぼうとすると、先に大工のゼグが梯子を担いで現れた。

「板を見た。材木代はもう足りてる。工賃は半分でいい」

「命令はしていません」

「分かってる。だから来たんだ」

 卵の老婆は釘を一袋置き、粉屋は職人たちの昼食を運んだ。誰も徴発されていない。自分の払った銅貨が、自分たちの頭上へ戻ると知っていたからだ。

 夕刻、最後の板が張られた。雨粒が新しい屋根を叩き、その下で市場の鐘が再び鳴る。

 老婆が入口に小さな看板を掛けた。

『門税なし。売れた喜びを、少しだけ町へ』

 翌朝、十九あった空き台は、一つもなかった。