雨漏りを知らない古道具屋
王都倉庫局を辞めた日、アマリルは擦り切れた灰色の制服ごと、山裾の古道具屋へ逃げ込んだ。
引き継いだ店は傾き、看板は片方の鎖でぶら下がっていた。それでも契約書には、妙な一文があった。
――当店は、店主が休んでいる間に限り、損傷を自ら修復する。
最初の夜、嵐が来た。屋根瓦が三枚飛び、雨樋が折れ、扉に倒木がぶつかった。倉庫局なら緊急補修班を呼び、徹夜で報告書を七枚書くところだ。
だが朝、アマリルが寝台から起きると、瓦は元の列に戻り、雨樋は銀色に光り、扉には傷一つなかった。店内では、値札を読める小さな秤が客の硬貨を確かめ、売れた品の代わりに倉庫から次の商品を棚へ運んでいた。
机上の水晶板が淡く鳴る。
《夜間売上を入金しました。生活費換算・十二日分》
大金ではない。だが、今日働かなくてもパンと薪を買える額だった。
同時に、旧式の通信石が激しく震えた。未読の緊急連絡は二十七件。倉庫局長の声が割り込む。
『戻れ。棚卸しが崩壊している。お前なら一晩で直せるだろう』
アマリルは、肘の白くなった制服を見た。あの服を着ていた頃、眠ることは怠慢で、断ることは裏切りだった。
「私はもう、そちらの不足を埋める備品ではありません」
『給金を上げる。役職も――』
「今日の予定は、何もしないことです」
通信を切ると、なぜか店の看板が自分で鎖をつなぎ直した。表には〈営業中・店主は休息中〉の文字が浮かぶ。
午前の客は、杖をついた老女だった。欠けた銀杯を手に取り、会計台へ置くと、秤が適正な値を示し、釣り銭まで数えた。老女は二階へ向かって「いい店ね」と声を上げた。アマリルは礼を言おうとして、やめた。店が褒められたのだから、店に任せていい。倉庫局では一件ごとに印を押さなければ何も進まなかったのに、ここでは彼女が座っていても、誰も困らない。
客が入ってきても、秤と棚が静かに応じる。アマリルは裏庭へ回り、二本の木の間に吊った布へ横たわった。
通知石を伏せる。葉の隙間から昼の光が落ちる。
店が働いている音を遠くに聞きながら、彼女は初めて、雨の心配をせず目を閉じた。