雪籠りの黒板
雪が三日続いた朝、領主代行のセナは、村の共同倉の前で空になった升を見つめていた。
麦がないわけではない。大地主の納屋には袋が積まれ、貧しい家の鍋だけが薄かった。去年までは、村長が「領主税」と言えば好きなだけ取り、残りを身内へ回していたらしい。帳面には合計しかなく、誰が何を出し、誰が何を受け取ったかは書かれていなかった。
「今年の税は、収穫の十分の一。それ以上は一粒も取らない」
セナは広場に黒板を立てた。左に全戸の人数、中央に納めた麦、右に受け取れる冬籠り分を書く。働けない老人と幼子にも一人分。妊婦のいる家には半人分を加える。倉を開ける日は鐘を鳴らし、鍵はパン屋の老女と鍛冶屋の若者が一本ずつ持つ。
地主のボルグが鼻を鳴らした。
「数字を見せれば麦が増えるのか」
「増えません。ですが、消える場所はなくなります」
セナは自分の屋敷の取り分を最初に黒板へ書いた。税から冬の必要量を引き、残りはゼロ。宴会用も来客用もない。
沈黙の後、粉屋が一袋運んできた。
「うちの納屋に去年の豆がある。虫食いを選れば食える」
次に羊飼いが干し肉を置いた。地主の小作人たちも、命令を待たず荷車を押してきた。出した品と量は、その場で本人に読んでもらい、間違いがあれば消して書き直した。
ボルグは最後まで腕を組んでいたが、夕方、誰より大きな麦袋を担いで戻った。
「十分の一だ。数えろ。俺の名も、同じ字の大きさで書け」
配給初日、足の悪い仕立屋が列の端で帽子を握り潰していた。施しを受けるのが嫌なのだと分かり、セナは黒板を指した。
「あなたは一人暮らし。一人分です。余計でも不足でもありません」
仕立屋は礼を言わず、当然の顔で升を受け取った。その背中を見て、並ぶ人々の肩からも力が抜けた。恩ではなく規則なら、誰も膝を折らずに済む。
一週間後、黒板の下には「春まで残す分」という白い線が引かれた。倉を満たしたのは命令ではなく、自分の一袋が誰の皿へ行くか分かった人々だった。
初雪が黒い板の縁へ積もる中、村の子どもが新しい文字を書き足した。
――冬籠り共同倉。中身は、みんなのもの。