零番を背負う

宇賀神透は、残り四十秒を示す計時盤から磁石の「0」を剥がした。紀藤真琴と猿渡剛が一番扉の前で肩をぶつけ合う横を抜け、彼は入ってきたばかりの背後の扉へそれを貼る。非常用の横棒を押し、狭い前室へ一歩出た。

天井のスピーカーが沈黙した。

「戻っただけだぞ!」

猿渡が叫ぶ。前室の先は鋼板で塞がれ、外へは続いていない。だが透は敷居の向こうで立ち止まり、首輪に指を添えた。

この一ラウンドの規則は一文だけだった。

――制限時間内に、この部屋で最小の番号が付いた扉を通過した一人を生還させる。

正面には一、二、三の扉。三人は当然、一番を奪い合った。どの扉が出口か、どこに罠があるか。その説明は一切ないのに、勝つ扉は正面に並ぶ三枚のどれかだと思い込んだ。

透だけは計時盤の下を見た。次のラウンドで数字を組み替えるためらしく、予備の磁石が並んでいた。さらに背後の扉には番号こそないが、蝶番も取っ手もある。前室が行き止まりでも、扉を通過した事実は変わらない。

「番号は固定されているとは言っていない。出口へ出ろとも言っていない」

透が言うと、計時盤の数字が三十九から三十八へ変わった。外した0がなくても、液晶の輪郭だけで表示は動いている。つまり磁石は装飾であり、持ち出しても計時を妨害していない。

主催者は三人を一番の前で争わせたかったのだろう。非常扉を施錠しなかったのは、火災時の退路を残すためだ。安全管理のための扉と、見せ物のための言葉が噛み合っていなかった。

紀藤はようやく一番扉から手を離し、計時盤を見た。予備数字にはまだ4や5も残っている。だが0より小さい数字はない。猿渡が透の扉から札を剥がそうとしても、前室側へ閉じた扉にはもう手が届かなかった。

首輪が、乾いた音を立てて外れた。

正面では一番扉が開き、二人の足元だけが赤く照らされた。透が貼った0は背後の扉に残り、司会者の声より先に、勝者の緑灯が点いた。