青い箱は二つの家を知っている

 ぼくは青い二段弁当箱だ。帆高が小学一年生のとき、父さんと母さんと三人で選んだ。

 三年生の冬、家が二つになった。

 月曜と火曜は母さんの家から学校へ行く。水曜の放課後、ぼくも帆高と一緒に父さんの家へ移る。木曜と金曜は父さんが弁当を詰め、日曜の夜にまた母さんへ返される。

 母さんの弁当は隙間がない。花形の人参まで入る。

 父さんの弁当は隙間だらけだ。大きな唐揚げが場所をふさぐ。

 二人は顔を合わせなくなったが、ぼくのゴムバンドには、ときどき紙が挟まった。

〈卵焼きが甘すぎ。帆高は最近、甘いの苦手〉

〈唐揚げが硬い。奥歯が抜けかけています〉

〈体育の日。量を増やしてください〉

〈薬、上段のふた裏〉

 最初は互いの料理への文句ばかりだった。やがて紙には、帆高の体調や忘れ物や、笑った出来事まで書かれるようになった。

〈図工で賞を取ったそうです〉

〈昨日、自転車に乗れました〉

 帆高は紙を捨てず、ぼくの下段の底へ隠した。

 六年生最後の遠足の前夜、帆高は母さんへ言った。

「上の段だけ作って」

 父さんには、

「下の段をお願い」

 と頼んだ。

 朝、母さんは首をかしげながら、上段へ小さなおにぎりと花形の人参を詰めた。学校へ向かう途中、父さんの家へ寄ると、下段には大きな唐揚げと不格好な卵焼きが入った。

 遠足の丘でふたを開けた帆高は、両方を一口ずつ食べてから、空のベンチを見た。

「三人で食べたかったな」

 ぼくにだけ聞こえる声だった。

 卒業式の日、帆高は二人を同時に家へ呼んだ。食卓にぼくと、底にためていた紙を全部並べた。

「中学は給食だから、この箱、もう使わない」

 二人は黙った。

「最後くらい、三人で洗ってよ」

 母さんが上段を洗い、父さんが下段をすすいだ。ふたを拭く布を取り合って、久しぶりに言葉を交わした。

「唐揚げ、まだ硬い?」

「少しはまし」

「卵焼きは?」

「あれは甘いままでいい」

 ぼくは食器棚の一番上へしまわれた。

 冷めたおかずは、元の温度には戻らない。

 それでも別々の台所で作られたものが、同じふたの下で弁当になれることを、ぼくは知っている。