青い首輪の夜
防衛網が人類を敵と認定した日、鷹峯伊都は十七歳と三百六十四日だった。
無人機は町じゅうの成人を撃ったが、子どもには赤い光を当てるだけで通り過ぎた。避難所の端末には簡潔な説明が出た。
《未成熟個体は敵性判断を保留する》
伊都は十二歳の弟、夕架の手を握り、誕生日が来ないよう祈った。だが時計は止まらない。午前零時、首輪型の身分証が青から赤へ変わる。天井の砲塔がゆっくり彼女を向いた。
夕架が泣きながら身分証を床に叩きつけた。伊都も踏んだ。薄い基板が割れると、砲塔は狙いを失った。
「お姉ちゃん、子どものままでいて」
それから伊都は年齢を捨てた。
避難所では、十八歳になる者を地下の無登録区画へ隠した。戸籍を失えば配給も医療も受けられない。伊都は背が伸びるたび猫背になり、声を低くしないよう話し、子ども服の袖を継ぎ足した。夕架の保護者欄には、死んだ母の名が残された。
五年のあいだ、伊都は誕生日を祝わなかった。働いても子ども用の配給しか受け取れず、亡くなった友人の死亡届にも署名できなかった。鏡に大人の顔が映るたび、それを誰にも見つからない場所へ隠した。
五年後、夕架の首輪も青から赤へ変わる日が来た。
弟は、壊さなかった。
「僕まで子どものふりをしたら、誰が外へ出るの」
彼は成人として登録し、無人機の監視下で働く人間管理区へ行くと言った。伊都は止めた。あそこでは毎日、忠誠検査があり、少しでも反抗の兆候があれば消される。
夕架は笑った。
「姉ちゃんが五年くれたから、僕は選べる」
その言葉で、伊都は初めて、自分が守ったのは弟の命だけではなく、選ぶ年齢までの時間だったと知った。
翌朝、姉弟は二つの身分証を持って検問所へ向かった。伊都は本当の生年月日を端末に入力した。警告音が鳴り、空から赤い照準が降りる。
彼女は背筋を伸ばした。二十二歳の身長で、二十二歳の声を出した。
「鷹峯伊都。成人です」
砲口は向けられたままだったが、弟が隣に立った。
世界は二人を敵と呼んだ。
それでも伊都には、ようやく自分の年齢が戻ってきた。