青黒い供述
私は鵜殿鐘一の秘密を、誰より早く知った。
彼とは二十年の付き合いだった。授賞式にも葬式にも連れていかれ、彼が言葉に迷うたび、いちばん近くで答えを待った。世間は彼を寡黙な推理作家と呼んだが、私は知っている。彼は黙っているのではない。都合の悪いことを、胸の奥へしまうのがうまいだけだ。
担当編集の百目木絢女が書斎を訪ねた夜も、私は彼の胸元にいた。
「盗作を認めてください」
絢女は古い原稿を机に置いた。鐘一の代表作と、一字一句同じだった。作者は十年前に失踪した新人。絢女は翌朝、比較記事を公開すると言った。
鐘一は書斎の鍵を掛けた。
私を握る手が汗ばんだ。
首をひねられ、口をむき出しにされたとき、彼が文章を書くつもりでないことは分かった。
絢女は一度しか叫ばなかった。
鐘一は原稿を暖炉で燃やし、彼女を窓から落として自殺に見せかけた。机には「すべて私の誤りです」と遺書を残した。ただし、それを書くのに私を使わなかった。引き出しの使い捨てを選んだ。私の体を何度も布でぬぐい、胸元へ戻した。だが、細い溝の奥までは気づかなかった。彼はいつも、表面だけを美しくする男だった。
翌朝、檜垣警部が来た。
鐘一は、絢女が盗作記事を捏造した罪悪感から飛び降りた、と話した。警部は焼け残った紙片や偽の遺書を調べたが、凶器らしいものは見つからない。検視官からの連絡を待ちながら、最後に一枚の紙を差し出した。
「供述調書に署名を」
鐘一は迷わず私を取り出した。重要な契約には必ず私を使う。それが成功者としての験担ぎだった。習慣は、罪より強い。
紙に触れた瞬間、私の口から青ではない一滴が落ちた。
乾きかけた赤黒い雫だった。
警部は鐘一の手首をつかみ、私を透明な袋へ入れた。細い溝から、絢女の血液と皮膚片が見つかった。先端の欠け方は、喉に残った傷と一致した。焼け残った原稿の文字からは、失踪した新人の筆跡も確認された。
鐘一は取調室で、「こいつが勝手に」と何度も私を指さした。
半分は正しい。
私は彼を告発するために話したのではない。ただ、抱え込んだものを、紙の上へ吐き出しただけだ。
私は共犯者でも、目撃者でもない。
彼が二十年間、胸ポケットに差していた一本の万年筆である。