非常ビーコンは奈落を映す

《これ録画だろ。逆瀑布層は通信不能だぞ》

《霧島朔って戦闘員じゃなく荷運び専門では?》

《浮島の四人を一人で救助とか釣りタイトル》

 背負い袋が岩壁にぶつかった拍子に、非常ビーコンの蓋が開いた。救難信号と同時に公開配信が始まったことを、霧島朔はまだ知らない。

 逆さに流れる滝の向こうで、四人の探索者が小さな浮島へしがみついている。島の下では《逆鱗鯨》が口を開け、重力が反転するたび彼らを少しずつ吸い寄せていた。

 先行した救助隊は三本の牽引鎖を失っていた。一本目は自重で千切れ、二本目は浮島ごと鯨に噛まれ、三本目は重力反転で救助艇を奈落へ引いた。残された四人は、次の反転で島が割れることを知り、互いの安全帯を結んでいた。

 朔は腰の運搬帯を伸ばし、先ほど投げ渡しておいた金具が浮島の縁に掛かっているのを確かめた。

《おい、その帯は市販の二百キロ用だ》

《島の推定重量、監視計で一万八千トン》

《次の反転まで五秒。切れるぞ!》

「荷札は付けた。受取人も確認した」

 朔は肩へ食い込む帯を、ただ一度、引き上げた。

 浮島が跳ねた。

 四人と岩盤と、その下へ噛みついていた逆鱗鯨まで、巨大な荷物のように奈落から持ち上がる。滝が天へ戻る瞬間、朔は半歩だけ下がり、島を安全区画の平床へ静かに置いた。遅れて鯨だけが荷札を失い、重力の底へ落ちていった。

《は? 島ごと運んだ?》

《固有技能《受領運搬》、重量上限の記載がない》

《検証班:帯に細工なし。荷札を受理した対象は全部「一個の荷物」判定だ》

《四名の生体反応、全員正常!》

 そこで朔は、ようやく胸元の赤い点滅に気づいた。

「……これ、配信中なのか」

《今それ言う?》

《荷運び専門じゃない。荷運びが最強なんだ》

《救助隊より早く地形を搬出した男》

浮島の四人は立ち上がると、入口で朔を「荷物番」と呼んだ探索者から順に頭を下げた。朔は礼を受けず、裂けた荷札を貼り直す。

《救助者四名の証言一致。事前打ち合わせなし》

《運搬帯の製造会社まで「想定外です」と公式回答》

「荷物に傷がなくてよかった」

 彼が見たのは、四人の顔だった。

 管理局の速報欄が更新される。

【世界初認定:災害級地形一括搬送/実行者・霧島朔】

 表示の隣で、同時視聴者数が一〇〇万を越えた。