面会日は永遠

御舟澪央が意識を雲上都市へ移したのは、五十八歳の冬だった。肉体は三日後に停止したが、澪央の部屋では午後四時の光がいつまでもカーテンに差していた。

最初の一年、夫と息子は毎日面会に来た。卓上の湯気まで再現された紅茶を挟み、病院ではできなかった話をした。二年目には週末だけになり、五年目には正月だけになった。現実の五分を澪央は一日に引き延ばせたから、誰も来ない一か月は百年にもできた。

けれど、待ち時間を短縮することだけはしなかった。

夫の髪が白くなり、息子の声が父親らしくなった。画面の外で家族の時間が進むたび、澪央の部屋だけが置き去りになった。夫が亡くなった年、息子は泣きながら謝った。

「母さんを一人にするのが怖くて、父さん、アップロードを断ったんだ」

澪央は初めて知った。夫は、永遠に隣り合うことより、一度きりの人生を選んだのだ。

それから澪央は部屋を壊した。午後四時を消し、紅茶もカーテンも捨て、面会ロビーから見える空に毎日違う雲を作った。来訪者がいない日は、知らない死者の話を聞いた。海を見たことのない者には波を、冬を忘れた者には雪を作った。待つことしかなかった永遠に、仕事ではない役目が生まれた。

さらに六十年後、一人の老女が面会ロビーに現れた。息子の娘、澪央にとっては赤ん坊の姿しか知らない孫だった。

「おばあちゃん。私も、今日からこっち」

老女は八十七歳の顔のまま笑った。

澪央は抱きしめようとして、手を止めた。永遠の入口で、また誰かを自分の午後四時に閉じ込めるのが怖かった。

「まず、あなたが生きてきた時間を見せて」

孫が差し出した記憶には、結婚も、離婚も、病気も、澪央の知らない曾孫たちもいた。家族は彼女を忘れていたのではない。彼女が見られない場所で、懸命に生きていたのだ。

その日から澪央は、面会日を数えるのをやめた。

永遠とは、誰かを待ち続ける長さではない。会えなかった時間まで、あとから抱きしめ直せる広さなのだと、ようやく知った。