食べ終えた弁当

深夜のコンビニで、荒生田鋭二は空になった弁当容器をレジへ叩きつけた。

「酸っぱかった。腹を壊したらどうする。代金を返して、迷惑料も五万円よこせ」

高校生らしい新人店員が、消費期限と保管状況を確認しようとすると、荒生田は声を張り上げた。

「客を疑うのか。店長を呼べ。土下座の動画を上げたら、この店なんて終わりだぞ」

列の後ろにいた革ジャン姿の大男が、一歩だけ前へ出た。短く刈った髪、太い首、右眉の古い傷。荒生田は一瞬ひるんだが、すぐ顎を上げた。

「何だよ。関係ねえだろ」

「関係はあります」

男は低い声で答えた。

「あなた、十分前に外のベンチで、その弁当を『うまい』と言いながら完食しましたね。私も隣で食べていました」

荒生田は鼻で笑う。

「人違いだ」

新人店員が店長を呼び、防犯映像を確認した。荒生田が弁当を食べ、最後に容器の写真を撮り、スマートフォンへ「空箱で返金チャレンジ」と入力する様子まで映っていた。画面を拡大すると、投稿先のアカウント名も読めた。

革ジャンの男は名刺を出した。

〈日向路聖悟法律事務所 弁護士〉

「虚偽の申告で返金や金銭を得ようとすれば、ただの苦情では済みません。さらに、土下座を要求し、悪評を流すと告げて金銭を迫った。店が警察へ相談するなら、私は目撃者になります」

荒生田は急に笑顔を作った。

「冗談だよ。動画の企画。若い店員に社会勉強させただけ」

日向路はレジ横の名札を見た。

「社会勉強をするのは、あなたのほうです。店員はあなたの教材ではない」

店長は返金を拒否し、荒生田へ今後の入店を断る通知を読み上げた。荒生田が容器を持って逃げようとすると、自動ドアの前に警察官が二人立っていた。新人店員が裏で通報していたのだ。

日向路は空容器を証拠袋へ渡し、荒生田の投稿画面も保存された。

レシートに印字された購入額五百八十円の下へ、警察官が相談受理番号を書き込んだ瞬間、五万円を脅し取るつもりだった男には、弁当代よりはるかに高い代償だけが確定した。