首席を支えた空欄

春の能力測定で、リュカ・フェルンの水晶板には【基礎魔力:3】とだけ浮かんだ。

笑い声は、講堂の高い天井でよく響いた。実戦科首席のガレス・オードは、腰の剣を鳴らして言った。

「補助台の陰がお似合いだ。今まで通り、俺たちの術式でも磨いてろ」

リュカは反論せず、測定台の裏へ回った。彼の仕事は、受験者が放つ魔術の流れを細い銀糸で整えることだった。炎が暴れれば熱を逃がし、雷が途切れれば道をつなぐ。名前は記録されない。成功は術者の手柄になり、失敗だけが補助係の責任になった。

その日、新任の学院長が測定器へ「因果追跡」を追加した。誰の力が、どの結果を生んだかを表示する機能だ。

ガレスは得意の火槍を放った。標的は溶け、拍手が起きる。だが学院長はリュカに銀糸から手を離すよう命じた。

次の火槍は、穂先になる前に膨れた。赤い塊がガレスの顔へ逆流し、教師たちが防壁を張る。ガレスは青ざめて叫んだ。

「補助しろ! 早く!」

リュカが銀糸をつまむと、炎は嘘のように細まり、まっすぐ標的を貫いた。

学院長はそこで測定を止めなかった。保管庫から過去の演習記録を呼び出し、銀糸の有無だけを切り替えて再生する。ガレスが「単独で成功した」と報告した火壁は、糸が消えた途端に味方を焼いた。教師が絶賛した雷陣は、リュカの結び目がなければ起動すらしない。観覧席の生徒たちは、自分の成功にも同じ銀色の補助線が通っていたことを知った。

「お前が勝たせていたのか」

ガレスの声はかすれていた。

リュカは首を横に振る。

「勝ったのは皆です。ただ、僕をいなかったことにしたままでは、次も同じようには勝てません」

その言葉で、教師たちのほうが目を伏せた。彼らは裏方を評価しない仕組みを作り、その仕組みが正しい証拠として、裏方の成果を使い続けていたのだ。

講堂の水晶板が激しく明滅した。ガレスの名から伸びていた光の線がほどけ、ほとんどすべてがリュカの名へ結び直される。

【実戦貢献度:96%】

さっきまでの笑い声は消えた。学院長は補助台を中央へ運ばせ、代わりにガレスをその陰へ立たせた。

リュカは初めて、測定台の正面から水晶板を見上げる。表示は静かに更新された。

【実戦科・役職改定】

首席:リュカ・フェルン

補助訓練対象:ガレス・オード