骨壺の蓋は一つ
父の火葬が終わる前から、三きょうだいは遺骨の行き先で争っていた。
「先祖代々の墓へ入れる」
長兄が言う。
「父さんは海へまいてほしいって、何度も話してた」
姉が反論する。
「最後の三年、世話したのは僕だ。しばらく家に置く」
末弟が骨壺を抱いた。
四十九日の法要にも、三人は別々の資料を持ってきた。墓地の申込書、散骨業者の案内、手元供養の小さな容器。
僧侶は困り果て、父が残した遺言書を開いた。
〈遺骨は、三人全員が同意した場所へ納めること。それまでは寺に預ける〉
「死んでからまで面倒を押しつける」
長兄は吐き捨てた。
月に一度、寺で話すことになった。
最初の会では、父の骨より昔の恨みが出た。
長兄は、家を継げと言われ進学を諦めた。
姉は、娘だから墓の話から外され続けた。
末弟は、介護を任される一方で「仕事がないから暇」と言われた。
「だから墓を守るのは俺だ」
「だから私が海へ連れ出す」
「だから僕のそばへ置く」
三人とも、父を望む場所へ送ろうとしていたのではなかった。
父に認めてもらえなかった自分を、最後に勝たせようとしていた。
半年後、寺から骨壺の修理について連絡が来た。古い蓋に小さなひびが見つかったという。
三人で新しい骨壺を選びに行った。
店には、分骨用の小さな壺も並んでいた。
「三つに分ければ終わる」
長兄が言った。
姉は首を振った。
「また父さんを取り分にするの?」
末弟が初めて骨壺を机へ置いた。
「僕も、介護した年数を所有権みたいにしてた」
結局、遺骨は宗派を問わない共同墓へ納めた。長兄の墓でも、姉の海でも、末弟の家でもない場所だった。
代わりに毎年、父の命日に三人で海へ行くことにした。帰りには先祖の墓へ寄り、末弟の家で夕食を食べる。
「全部やるのか」
「どれか一つを勝たせないため」
納骨の日、三人で一つの蓋を閉じた。
父を誰が一番愛したかも、誰が一番傷つけられたかも、決着はつかなかった。
ただ骨壺だけは、三つに割らずに済んだ。三人も、まだ割れきらずにいた。