〇〇〇号室管理費滞納処理
【第十九期管理組合・臨時理事会議事録】
議案第一号
〇〇〇号室の管理費滞納について
会計担当より、〇〇〇号室には竣工時から二十九年分、総額四百十七万六千円の滞納があるとの報告。
理事長より「そのような住戸は存在しないため、帳簿上の誤りとして削除すべき」と提案。
監事より、以下の指摘あり。
・当マンションは全九十六戸だが、共有持分の分母は九十七となっている。
・竣工図面には、地下階の中央に番号のない十三平方メートルの区画がある。
・歴代管理員の引き継ぎ書には〈〇〇〇号室の残高をゼロにしてはならない〉と記載されている。
理事長は「迷信を会計処理の根拠にできない」と発言。
出席理事七名のうち、六名の賛成により、滞納額の全額を貸倒損失として処理することを決議。
反対者は一七〇三号室代表一名。
【翌日追記】
会計システム上、〇〇〇号室の残高がゼロになったことを確認。
同時刻、登録住戸数が九十五戸へ変更された。
設計図面の十七階から、一七〇三号室が消失している。
現地確認を実施。
一七〇二号室の隣は一七〇四号室であり、壁面、床材、天井梁に改修痕はない。居住者へ聞き取りを行ったが、全員が「以前からこの配置だった」と回答した。
理事会出席者名簿も六名へ変更され、反対票の記録は存在しない。
ただし議事録作成者の手書きメモには、反対者の発言が残っている。
〈〇〇〇は空室ではない。建物の帳尻を合わせるため、空けてある一戸だ〉
〈借金を消せば、代わりに実在する一戸が帳簿から取られる〉
【防災センター報告】
午前二時十四分、住戸間インターホンに新しい番号が自動登録された。
〈地下〇階 〇〇〇号室〉
同室から管理員室へ呼び出しあり。
画面には、窓のない狭い部屋と、四人家族が映っていた。一七〇三号室に住んでいたと、議事録作成者だけが記憶している家族と一致する。
父親は画面を叩きながら、繰り返した。
『管理費は払いました』
『滞納はなくなったでしょう』
『ここを開けてください』
通話終了後、会計システムを再確認。
〇〇〇号室
残高 〇円
所有者 管理組合
居住者 四名
区分 共用設備
備考欄には、自動で一文が追加されていた。
〈共用設備のため、居住者による退去申請は受理しない〉