こたつの中では嘘がつけない

 うちの家族は、口より足のほうが正直だ。

 父と母は、夕食のたびに小さなことで言い合う。

「醤油を使いすぎ」

「味が薄い」

「健康診断の紙、見せて」

「食事中にその話をするな」

 けれどこたつの中では、父の足が冷えている母へ湯たんぽを押し、母は何も言わず父の靴下を足先で直す。

 高校生の姉は、ぼくに向かって言う。

「近寄らないで。狭い」

 そのくせ、ぼくが眠くなると、自分の膝掛けを足で送ってくる。

 祖父は会話へ入らず、黙って鍋を食べる。でも面白い話になると、こたつの下で踵を二回鳴らす。祖父の笑い声の代わりだ。

 ぼくはそのことを知っていた。

 だから、両親が大喧嘩した夜も、家族が壊れるとは思わなかった。

「もう勝手にして!」

 母が台所へ立ち、父は新聞を広げた。姉はイヤホンをつけ、祖父は鍋の蓋を閉じた。

 口だけ見れば、全員ばらばらだった。

 そのとき停電した。

 暖房もテレビも消え、こたつはただの布団になった。

「寒い」

 ぼくが言うと、誰かの足が触れた。姉だった。反対側から母の足。父の足は大きくて、すぐ分かった。祖父の足も、靴下の毛玉で分かった。

 暗闇の中、五人の足だけが一か所へ集まった。

「暑いときは狭いのに、寒いと便利だね」

 ぼくが言うと、祖父の踵が二回鳴った。

 父が笑い、母も吹き出した。

「さっきの喧嘩、何だったっけ」

「あなたが私のプリンを食べた」

「それは大きな問題だ」

「停電より?」

「種類が違う」

 姉が端末の明かりをつけ、みんなの顔が青白く浮かんだ。

 冷めかけた鍋をそのまま食べた。父は母へ最後の肉を渡し、母は半分返した。姉はぼくの椀へ葱を入れ、ぼくは全部祖父へ移した。

 電気が戻ると、こたつも再び温かくなった。

 誰かが足を引けば、また広く使える。

 けれどしばらく、誰も離れなかった。

「うちは、口では仲悪いのに、足は仲いいね」

 ぼくが言うと、父は否定し、母は呆れ、姉は恥ずかしがった。

 祖父だけが、こたつの下で三回、踵を鳴らした。

 たぶん、いつもより大きな笑いだった。