すでに死んでいた犠牲

高城野万里は、犠牲者名簿に「細石千鶴」と書いた。

向かいの皆見稜が、鉛筆を取り落とす。

「誰だ、それは。ここにいるのは僕ら二人だぞ」

壁には一つだけ規則があった。

〈実在する一人の氏名を記入せよ。選ばれた者の死亡が確認されれば、残る参加者を解放する〉

二人の机には互いの身分証が置かれていた。主催者は、どちらがどちらを殺すか見せたいのだ。稜は万里の名を書きかけ、万里が先に知らない名を記したことで手を止めた。

『参加者以外を記入しても、死亡させる手段はありません』

「死亡させろとは書いていない」

万里は名簿を投入口へ押し込んだ。

細石千鶴は、前のラウンドで死んだ女性だった。万里と同じ搬送車に乗せられ、扉が閉まる直前、自分の社員証を彼女へ投げてよこした。

――次に名前を要求されたら、使って。

意味は今わかった。社員証の裏には、千鶴の生年月日と指紋認証用コードがある。主催者は犠牲のたびに記録を取り、死を商品として整理している。ならば、そのデータベース自身に照合させればいい。

機械音が鳴った。

〈細石千鶴。実在確認〉

〈死亡記録、四十二分前〉

千鶴の首輪番号と、停止した心拍の時刻まで画面へ表示された。

〈条件成立〉

二人の首輪が緑へ変わる。

稜は安堵したあと、険しい顔で万里を見た。

「死者をもう一度、生贄にしたのか」

万里は社員証を胸に当てた。

「違う。あの人の死を、一度で終わらせなかった」

主催者が欲しかったのは、新しい死だった。だが規則は「選択後に死亡させる」とも「生存者を選ぶ」とも限定していない。確認すべき死亡がすでに存在するなら、追加の犠牲はいらない。

出口が開く。万里は名簿から排出された紙を拾った。千鶴の名には、赤い〈履行済〉の印が押されていた。

「この印は、あの人が私たち二人を助けた証明よ」

稜は自分が書きかけた万里の名を破った。

二人が出たあとも、主催者の画面には四十二分前の死が残った。新しい悲鳴を期待していた機械は、過去の犠牲に負けたのだ。