ぼくの机は差し押さえません

 お父さんが自己破産すると聞いて、ぼくは机の引き出しへ宝物を詰めた。

 恐竜の歯みたいな石。

 百点を取った漢字テスト。

 片方だけの青い靴下。

「何してるの?」

 お母さんに聞かれ、引き出しを両手で押さえた。

「持っていかれないようにする」

 自己破産という言葉を、ぼくは家の物を全部誰かに取られることだと思っていた。

 お父さんは会社を辞めたあと、友達と弁当屋を始めた。店はうまくいかず、借りたお金を返せなくなった。

「ぼくのおもちゃも借金?」

「違うよ」

「じゃあ、この机は?」

 二人は顔を見合わせた。

 今の家を出て、小さな部屋へ移ることは決まっていた。ぼくの大きな学習机は、新しい部屋に入らない。

「やっぱり取られるんだ」

 泣くと、お父さんは床へ座った。

「誰かに取られるんじゃない。持っていけないから、どうするか一緒に決めたい」

「捨てるの?」

「売る、譲る、形を変える。選べる」

 ぼくは机を調べた。

 天板には鉛筆の跡。

 横には身長を測った線。

 裏には、幼稚園のころ描いた家族三人の顔。

「上だけ持っていける?」

 お父さんは数日かけて机を分解した。天板を短く切り、脚を付け、新しい家の食卓にした。

 引っ越しの日、ぼくは宝物を段ボールへ入れた。片方だけの靴下は、お母さんに捨ててもいいと言われたけれど残した。

 新しい部屋では、ぼくのベッドと両親の布団が近い。夜、お父さんの寝返りまで聞こえた。

「前の家より狭いね」

「うん」

「自己破産したから?」

「うん。でも、ここから暮らし直すためでもある」

 お父さんは、失敗した理由を少しずつ話した。売上が足りないのに、家族を安心させたくて嘘をついたこと。お金を借りれば、もう少し頑張れると思ったこと。

「また店する?」

「今はしない。まず働いて、暮らしを覚え直す」

 食卓になった天板で、三人で夕飯を食べた。

 裏をのぞくと、昔描いた家族の顔が逆さまに残っている。

 家は変わった。

 机も変わった。

 お父さんの仕事も変わった。

 でも、なくなったものだけではない。

 ぼくの机は取られず、三人が向かい合う場所に変わった。