ケツカッチン救出作戦

映画撮影所で働き始めた逆井仁は、助監督の叫びを聞いて工具箱を落とした。

「主演、ケツカッチンです! あと十五分!」

仁は主演俳優の椅子へ駆け寄った。大スターの御門レオは、平然と台本を読んでいる。

「動かないでください。どこが挟まっています?」

「何の話?」

「お尻です。カッチンなんでしょう」

レオが答える前に、監督が怒鳴った。

「逆井、ぼさっとするな! ケツがあるんだから巻け!」

尻があり、しかも巻かれている。かなり複雑な事故らしい。

仁は救護班へ無線を飛ばした。

「対象は意識あり。臀部が固定され、巻き込みも発生しています」

『機械に?』

「不明です。本人は平静を装っています」

助監督が割り込んだ。

「五分押してます。レオさんのケツ、絶対ずらせません!」

「ずらしたら危険なんですね」

「次の現場に迷惑がかかる!」

仁は椅子の下へ潜り込んだ。ボルトを外そうとすると、衣装係が悲鳴を上げた。

「何してるの! その椅子、本番で使うのよ」

「人命と小道具、どちらが大事ですか!」

「撮影よ!」

ここは恐ろしい業界だ。

救護班が酸素ボンベを抱えて到着した。

「挟圧時間は?」

仁が答えるより早く、助監督が叫んだ。

「朝からずっとケツカッチンです!」

「そんな長時間?」

「本人は慣れてます!」

大スターは台本から顔も上げない。プロ根性か、感覚が麻痺しているのか。救護班まで椅子の周囲へ集まり、撮影は完全に止まった。

仁は大型カッターを取り出した。

「レオさん、ズボンを切ります」

「待て待て待て」

初めて大スターが動揺した。

そこへマネジャーが走ってきた。

「車、回しました。CM撮影へ移動します」

助監督が腕時計を示す。

「逆井君。ケツカッチンは、後ろの予定が詰まっていて終了時刻を延ばせないって意味」

仁はカッターを下ろした。

「では、お尻は無事?」

「最初から」

その瞬間、レオが立ち上がり、ズボンの裾を折り畳み椅子に挟まれて転んだ。

助監督が叫んだ。

「今度は本当にケツがカッチンした!」