スクリーンショットの返事

「スクリーンショットなんて、切り取った証拠でしかないよ」

井ノ原夕映は、噂話を見せてくる友人へいつもそう言っていた。前後がなければ、言葉の意味はいくらでも変わる。

その夜、夕映は碓氷廉人とのやり取りをスクリーンショットにして、友人へ送ろうとした。

《また“気をつけて帰れ”だけ》

《優しいのに、絶対に一歩入ってこない》

《この人だけは失いたくないから、私も友達のふりを続けてる》

送った直後、画面上部の宛名に《碓氷廉人》と出ていることに気づいた。自分との会話を、本人へ送り返している。

夕映は削除しようとしたが、既読がついた。

廉人とは大学の写真サークルから七年の付き合いだった。仲間内の恋愛がこじれてグループが壊れた夜、二人で「友情は壊さない」と約束した。それ以来、誕生日も引っ越しも失恋も支え合いながら、決して関係の名前を変えなかった。

《ごめん。送り先を間違えた》

そう打つと、すぐ返信が来た。

《前後を確認したい》

《玄関、開けて》

インターホンが鳴る。ドアの外に廉人が立ち、古いアルバムを抱えていた。サークルの集合写真から始まり、卒業式、旅行、夕映の新居。どの写真でも二人は端にいるのに、肩だけは必ず触れている。

最後のページは空白だった。廉人はそこへ、来週土曜の日付を書いた映画の半券を二枚貼る。

「この先も友達として残すなら、そうする」

夕映の胸が縮む。

「でも俺は、写真の説明を変えたい」

廉人はアルバムの見出し《友人たち》を二本線で消し、《夕映と廉人》と書いた。告白の言葉より慎重な筆跡だった。

夕映は彼の手からペンを取り、空白のページに《最初の一枚を撮る日》と書き足す。スマホで来週の予定を登録し、参加者に廉人を入れた。

玄関を出ようとした彼の袖をつかむ。廉人が振り返ると、夕映はその手へ指を絡めた。

「前後まで見たら、意味は変わった?」

「変わらない。むしろ、はっきりした」

スクリーンショットは切り取った証拠にすぎない。

けれど二人は、その先のページを一緒に増やすことで、切り取られない関係を選んだ。