スコアブックの最後の丸
サッカー部のマネージャーになって三年、私はゴールを一度も決めていない。
当たり前だ。試合に出ないからだ。
それでも最後の大会が終わった夕方、スコアブックの余白に小さな丸を一つ書いた。
試合は一対二。後半終了間際、同点を狙ったシュートがバーを越えた。笛が鳴り、選手たちは芝に倒れた。私は冷たいタオルと水を抱えて走った。
最初に立ち上がったのは、ずっと控えだった三年生だった。大会を通して出場時間はゼロ。それでも彼は一人ずつ肩を叩き、後輩を立たせた。
「お疲れ」
タオルを渡すと、彼は受け取らなかった。
「先に出たやつへ」
「人数分ある」
「じゃあ監督へ」
「先生のはぬるいのでいい」
ようやく笑って、首にかけた。
学校へ戻るころには、夕日がグラウンドの白線を赤くしていた。部員たちは最後のミーティングへ行き、彼だけがゴールネットを外していた。
「今日、出たかった?」
聞くべきではないと思いながら、聞いた。
「そりゃね」
彼は結び目をほどいた。
「でも、出られなかった時間も部活だったから」
私は意味が分からず、黙った。
彼は三年間、紅白戦の人数が足りないときに走り、雨の日にはボールを拭き、試合前には先発のスパイクを踏まないよう荷物を並べた。私よりマネージャーらしい日もあった。
「最後の記録、見せて」
スコアブックを渡すと、彼は自分の名前を探した。出場欄は空白だった。
「やっぱり何もないな」
私はペンを奪い、余白の丸を指した。
「これ、何」
「全員を立たせた回数。今日一回」
「そんな記録ある?」
「今作った」
彼は笑い、丸の横に自分で一本線を足した。丸は不格好なボールになった。
「じゃあアシスト、マネージャー」
ゴールには入らない記録だった。それでも、最後のページのいちばん目立つ場所に残った。
卒業式の日、彼はスコアブックのコピーを欲しがった。私は最後のページだけ渡した。
丸の下には、あとから小さく書き足しておいた。
『出場時間ゼロ。支えた時間、三年間』
彼はそれを読み、冷たいタオルを受け取ったときと同じ、困ったような笑い方をした。