ゼロ攻撃の治癒幕
私の測定板には【攻撃力:0】と出た。
その瞬間、セドリック・ヴェインは大げさに肩をすくめた。
「遠征班に、敵を傷つけられない人間はいらない」
私は治癒科だった。傷口を閉じる光は出せる。けれど学院が重んじるのは、標的をどれだけ派手に砕けるかだった。セドリックの剣は岩人形を両断し、私の光は誰も倒さない。だから私は模擬遠征の名簿から外された。
測定官は無言で、幻影迷宮を起動した。班員たちは門の向こうへ消え、私は観覧席に残された。
最初は歓声が上がった。セドリックは突進し、魔獣を斬り、仲間を急かした。だが、壁から飛んだ針を肩に受けた者が膝をつく。炎の床を越えた者が息を失う。傷は小さくても重なれば動けない。
いつもなら私は、誰かが痛みに気づく前に薄い治癒幕を張っていた。傷を治すのではない。衝撃を班全体へ分け、歩ける重さまで軽くする術だった。誰にも見えず、誰も礼を言わなかった。
やがて水晶の観測窓が赤く染まり、迷宮は強制終了した。転送されてきたセドリックは床に手をつき、私を見上げた。
「お前がいないだけで、なぜ……」
測定官は私を迷宮へ入れ、同じ傷だらけの班員たちへ光を広げるよう命じた。私は両手を開いた。薄い膜が全員を結び、荒かった呼吸がそろう。誰も倒していないのに、全員が立ち上がった。
迷宮の記録が巻き戻され、私が以前参加した演習も壁に映った。セドリックが毒矢を避けた場面では、実際には私の膜が矢羽を逸らしていた。崖を跳んだ仲間の足が折れなかったのも、着地の衝撃を私が全員へ薄く分けていたからだった。
班員たちは、勝利のたび私へ「回復は後でいい」と言って先へ進んだ。私はそのたび、後では間に合わない傷を、誰にも気づかれないうちに小さくしていた。
「攻撃できないから不要なんじゃない」
測定官が観覧席へ告げる。
「彼女がいたから、君たちは攻撃だけを考えていられた」
セドリックは立ち上がろうとして、まだ震える脚を押さえた。私は手を貸さなかった。代わりに治癒幕を薄く広げる。自分で立てるだけの力を返し、あとは本人に任せた。
水晶板が、剣の軌跡ではなく生存へつながった術を計算する。
【生存寄与率:99%】
測定官はセドリックの剣を回収し、私へ遠征章を渡した。表示が切り替わる。
【遠征科・配置更新】
班長:ミレイア・ノス
保護対象:セドリック・ヴェイン