ダイヤモンドは雨天中止

故・碓氷宗一郎の遺言には、こうあった。

〈わがダイヤモンドは、四つの角を最後まで守った者に譲る〉

「宝石に四つ角?」と甥の速人が首をかしげた。

「四角いカットなんでしょ」と従妹の万里。

「一辺ずつ所有権を主張したら割れるな」

「割る前提で話さないで」

「でも叔父さん、昔から“塁を守れ”って言ってた」

「塁? 宝石を積み上げた山?」

「それは類似品の“類”じゃない?」

二人は遺品整理会社から受け取った四本の白い杭を、貸金庫の周囲に立てた。速人は北東、万里は南西に陣取り、互いが角を奪わないよう監視した。

「夜中に動いたら失格だからね」

「そっちこそ。トイレへ行くなら角を置いていけ」

「角は置けないでしょ」

「ではペットボトルを」

「遺産争いで人間性まで捨てる気?」

そこへ宗一郎の旧友だという男たちが九人、ユニフォーム姿で現れた。

「人数をそろえてきたか」と速人は身構えた。

「そちらこそ、組織的ね」と万里。

「ダイヤモンド争奪戦でしょう?」と男の一人。

「やはり」

「我々は守備に自信があります」

「宝石強盗が守備を名乗るな」

「宝石?」

会話は噛み合わないまま、全員が郊外の河川敷へ移動した。道中、万里は宝石用の保険会社へ電話し、速人は警備員の見積もりを取った。

「屋外保管と伝えたら断られた」

「当然よ」

「では屋根を建てる」

「まだ現物も見てないのに?」

河川敷には一塁、二塁、三塁、本塁を結ぶ土のひし形があった。

「叔父さんのダイヤモンドって、野球場……?」

「少年野球チームも含む」と監督が言った。「四つの角を守れる人、つまりチームを存続させる人に任せたい、と」

速人は急に胸を張った。

「私は経営学を学んだ。資金計画なら」

「私、毎週日曜は空いてる」と万里。

「待て、さっきまで宝石を四等分しようとしていた人間に少年を預けられるか」

「あなたは角で用を足そうとした」

監督は二人にグローブを渡した。

「では実技で決めましょう。速人さんは三塁、万里さんは一塁へ」

その瞬間、雨が落ちてきた。

監督は空を見上げ、笛を吹いた。

「本日の相続審査、雨天中止!」

ダイヤモンドは、一円も輝かないまま泥になった。