プリンを食べたのは先祖です
木賊森家の冷蔵庫から、法事用の高級プリンが一個消えた。
母の珊瑚は、家族を仏間へ集めた。
「正直に名乗りなさい」
兄は妹を見る。
「お前だろ」
妹は父を見る。
「昨日、夜中に台所へ行ったよね」
父は仏壇を指した。
「ご先祖様かもしれない」
「最初から死人へなすりつけるの?」と母。
父は真顔だった。
「今朝、仏壇の鈴が鳴った。甘い物が欲しいという合図だ」
兄がうなずく。
「冷蔵庫も少し開いてた」
妹も続く。
「廊下に白い影を見た」
母は腕を組む。
「三人で証言を補強しても、プリン一個よ」
祖母まで話に加わった。
「曽祖父さんはプリン好きだったねえ」
「生前は羊羹派でしょう」
「死後に洋風になったのかも」
「味覚の国際化を霊界で?」
家族は仏壇の前へプリンの空き容器を置いた。
父が尋ねる。
「食べたなら鈴を一回」
兄が言う。
「食べてないなら二回」
母が止める。
「誰が鳴らすの」
「先祖」
「選択式アンケートに参加する先祖がいる?」
ちりん。
全員が固まった。
妹が父を指す。
「ほら、一回!」
父は胸を張る。
「曽祖父さんだ」
兄は母へ言う。
「疑ったことを謝って」
母は鈴の横にいる猫を見た。
「今、尻尾が当たっただけでしょう」
猫は仏壇から飛び降り、台所へ走った。家族も追いかける。
冷蔵庫の下には、プリンの蓋が落ちていた。
「猫が食べた?」
「蓋を開けられるわけない」
「先祖が開けて猫へ?」
「共犯関係を作らないで」
その時、祖母がエプロンのポケットから小さなスプーンを落とした。
全員が祖母を見る。
兄が冷蔵庫の監視アプリまで開いた。
「午前二時十三分に扉が開いてる」
妹が祖母を見る。
「その時間、起きてた?」
「年寄りは夜中に何度も目が覚めるの」
「プリンを食べるため?」
「先祖の声を聞くため」
「都合のいい霊能が開花してる」
祖母は少し考え、仏壇へ向かって言った。
「曽祖父さんが、半分だけ食べろって」
母が空き容器を持ち上げる。
「全部ありません」
「残り半分は、曽祖父さんの分」
先祖は最後まで否定できなかった。
法事では、新しいプリンが仏壇ではなく、祖母の前に置かれた。