ベルトコンベヤの外側
瑛乃の休憩は、荷物がもっとも多く流れる午前一時半に回ってきた。
物流倉庫の二階にある休憩室は、壁一枚を隔てて仕分け場に接している。ベルトコンベヤが回るたび、床の下から、ううう、と長い振動が上がってきた。止まる。警告音が鳴る。また回る。その反復に、天井の空調の低い風が重なる。
外は雨だった。窓は高い位置に細くついていて、駐車場の照明が濡れたガラスへ白く滲んでいる。
瑛乃は自動販売機で温かいココアを買った。缶が内部を転がり、取り出し口へ、がこん、と落ちる。両手で包んでも、指先の冷たさはすぐには戻らなかった。
休憩室には長机が三つある。椅子はばらばらの向きに置かれ、誰もいないのに、ついさっきまで会話があったように見えた。窓際の椅子の背には、片方だけの軍手が掛かっていた。洗いすぎて灰色になり、親指の付け根が薄くなっている。
その下に、小さく折った段ボールが挟まっていた。
「ここ、風あたります」
太い油性ペンの字だった。
誰に向けたものか分からない。注意なのか、親切なのか、書いた人がもう勤務中なのか帰ったのかも分からない。瑛乃は窓際に座りかけていた椅子を一つ内側へずらした。
瑛乃はパンの袋を開いた。機械の振動で、机の上の細かなパンくずが少しずつ端へ移動する。以前なら休憩中も作業量の数字を確認していた。今夜は画面を伏せ、甘いクリームが片側へ寄ったパンを、そのままの形で食べた。整っていないものを口に入れると、肩の力も少しだけ崩れた。
ベルトコンベヤが止まる。
倉庫全体が急に静かになり、雨が金属屋根を打つ音だけが近づいた。瑛乃は静けさを待っていたはずなのに、機械が黙ると、自分の呼吸が大きすぎる気がした。
やがて短いブザーが鳴り、床の下でローラーが一斉に回り始める。荷物は見えない。それでも箱と箱の隙間、ラベルを読む人の目、テープを切る手が、壁の向こうで夜を渡している。
ココアは半分残ったところでぬるくなった。
瑛乃は軍手に触れず、段ボールの注意書きだけを元の位置へ差し直した。休憩終了のランプが青く点く。
回り続けるものの外側にも、座ってよい場所はある。今夜はそれで十分だと思い、瑛乃は缶を捨てて立ち上がった。