モデレーション記録_午前零時十四分

モデレーション記録――午前零時十四分

【零時十四分】

地域高校の匿名交流アプリに、文化祭の朗読動画が投稿される。

動画の生徒は緊張で何度もつかえ、最後の一文を読み直している。

最初のコメント。

〈放送事故〉

続けて、笑う絵文字、切り抜き動画、ものまね投稿。

再共有、十二件。

【零時二十一分】

夜間担当〈灯台係〉、動画の再共有機能を停止。

生徒名、制服の校章、教室番号が映る投稿を非表示。

投稿者へ通知。

〈削除は罰ではありません。

本人の明日を、今夜の見世物から離すための措置です〉

【零時二十八分】

一件の異議申立て。

〈冗談なのに厳しすぎる〉

灯台係、返信。

〈冗談かどうかは、言った側の軽さではなく、受け取る側が逃げられるかも含めて考えます〉

【零時四十分】

動画に映っていた生徒本人から問い合わせ。

〈全部消したら、私が失敗したことを隠すみたいです〉

灯台係、動画そのものは本人が選べる状態に戻し、コメント欄のみ閉鎖。

本人へ非公開で提案。

〈残したいなら残せます。

削除したいなら削除できます。

今夜、決めなくても構いません〉

【翌朝七時十二分】

本人、動画を残す。

説明文を変更。

〈最後まで読めませんでした。でも、逃げずに壇上へ戻りました〉

反応ボタンは表示せず。

コメント欄は閉鎖のまま。

【一週間後】

校内放送で、同じ生徒が昼の連絡を担当。

一度つかえたあと、自分で笑い、最後まで読む。

アプリには動画を載せず、灯台係のみ記録。

【一年後】

新しい夜間担当が研修を受ける。

応募理由。

〈あの朗読をした本人です。

あの夜、誰かが私の失敗を消したのではなく、失敗を大勢のおもちゃにしないでくれました。

今度は私が、誰かの朝まで見張りたいです〉

研修画面には、最初の灯台係から一行だけ残されていた。

〈守った相手から感謝されなくても、判断は失敗ではありません。見えないまま終わる仕事ほど、静かに正確に〉

【引継事項】

親切な管理は、正しい意見を目立たせることだけではない。

広がりすぎる前に扉を閉じ、本人が自分の物語を選び直せる静けさを残すこと。