レモン色の警報

架月奏太が鍵盤を鳴らすと、会場はレモン色に染まった。

炭酸飲料工場の再稼働記念式典。奏太が書いた新しい社歌は、瓶を叩く音と泡の弾ける音でできた、子供でも踊れる四つ打ちだった。十年前、この工場では冷却設備から有毒ガスが漏れ、夜勤の作業員六人が死んだ。その中に奏太の父もいた。

会社は事故を「避難時の混乱」と説明した。父は出口を間違えた、と。

イントロで、黄色いマスコットが腕を振る。合成音声が明るく跳ねた。

「まっすぐ走れ」

歌詞上は、夢へ向かう子供たちへの応援だ。だが奏太は、伴奏の奥に古い警報音が混じるのを聞いた。納品前にはなかった三つの高音。工場の制御端末が、式典用ミキサーへ自動接続したらしい。

Aメロの瓶音が鳴るたび、スクリーンの泡が六つずつ消えた。奏太は演奏を続けながら、父の作業日誌を思い出した。事故の朝、最後のページだけ切り取られていた。会社は父が方向感覚を失った証拠だと言った。

サビに入る。

「まっすぐ走れ」

観客が拳を上げた瞬間、警報の三音が和音から外れた。大型画面に工場平面図が浮かぶ。赤い点は漏出地点。六つの白い点は、出口と逆方向へ動いているように見えた。

しかし曲のベースを左右反転すると、図面も反転した。式典映像用に会社ロゴへ向けて左右が入れ替えられていたのだ。六人は間違えていない。全員、最短の出口へ向かっていた。閉まっていたのは避難扉の方だった。

最後のブレイクで、父の無線が再生された。

〈東扉は開かない。俺が弁を閉める。お前たちは――〉

そこで声が切れ、社歌の一音が重なった。奏太が弾くはずのない、強いハ長調だった。

画面には、事故当夜の保守記録が表示された。コスト削減のため、会社が避難扉を施錠していた証拠。父は逃げ遅れたのではなく、他の五人を別経路へ押し出し、自分だけ設備室へ戻っていた。

奏太は最後の鍵を叩いた。

「まっすぐ走れ」

それは会社の前向きな標語ではない。父が死の直前、仲間だけを出口へ走らせた声だった。