七番倉庫の共同印

「家族なら、印を重ねられるでしょう?」

従兄のカシムが、青銅の鍵を卓上へ滑らせた。札には《七番倉庫》と刻まれている。

商会主オルナは、その鍵を知っていた。前の人生では共同管理契約に印を押した翌朝、七番倉庫から禁制の星砂が見つかった。帳簿も搬入証も、責任者の名はすべてオルナ。カシムは泣きながら「信じていたのに」と証言し、彼女の店と命を奪った。

処刑台で首輪が閉じた瞬間、時間は契約前の夕刻へ戻った。首筋には刃の冷たさが残り、右手にはまだ商会印を握る感触があった。今度こそ、この印を自分の名を守るために使う。

窓を打つ雨も、香草茶の渋みも同じだ。違うのは、十五年分の記憶がオルナにあることだけ。

「もちろん。家族だからこそ、曖昧にはできないわ」

彼女は印章を取った。カシムが安堵する。だが朱肉へ押す代わりに、契約書の共同責任欄へ横線を引いた。

「七番倉庫は受け取らない。あなたの単独管理に変更します」

「何を言う。もう荷は入っているんだぞ」

前回は聞けなかった言葉だった。まだ契約していないのに、もう荷がある。

オルナは青銅の鍵を商業監督官へ差し出した。

「今の発言を記録しましたね。契約前搬入の検査をお願いします」

壁際で書記を装っていた監督官が外套を脱いだ。カシムの顔から血の気が引く。

「抜き打ち監査だ。倉庫を開けろ」

「待て、あれはオルナが――」

「私は鍵に触れていないし、共同印もない」

鍵穴へ差し込まれた青銅が、乾いた音を立てた。扉の向こうには、麻袋の山。その一つが切られると、夜空のような銀粉が床へこぼれた。

監督官の鑑定板に《禁制品・搬入責任者カシム》と浮かぶ。

前の人生では、ここでオルナの商会章が黒く染まり、営業停止の鐘が鳴った。

だが今回は、彼女の胸元の章は青いままだ。

それどころか、監督官の板から新しい通知が飛んだ。

《密輸摘発協力により、オルナ商会を王都指定商へ昇格する》

カシムが初めて、家族ではなく「商会主殿」と彼女を呼んだ。