三番目は一番
榛名澪は、数字の「1」が描かれた扉を迷わず開けた。
沖名仁と水科蘭は、右端の三番扉へ同時に飛びついている。二人が振り返ったとき、澪はもう敷居を越えていた。
「違う! 三番目だぞ!」
仁の怒鳴り声に、澪は扉を半分だけ閉じて答えた。
「だから一番で合ってる」
壁面に示された規則は一つだった。
――主催者から見て三番目の番号付き扉を最初に通過した者を勝者とする。
正面には左から一、二、三。説明の直後、仁は三番を指し、蘭も異論を挟まなかった。「三番目」と「三番」を同じものとして処理したのだ。
澪は扉の上にある黒いガラスを見ていた。照明が落ちた瞬間、向こう側に座る人影が一度だけ浮かんだ。主催者は三枚の扉の裏、参加者と向かい合う位置にいる。こちらから左端の一番扉は、向こうから見れば右端――三番目になる。
仁はガラスを見上げた。
「カメラから見て、じゃないのか」
「規則には主催者から見て、と書いてある。カメラの視点なら、そう書けばいい」
蘭が三番扉の取っ手を引く。開かない。仁の手も同じ扉に重なり、選択センサーだけが二人分の赤を返した。
主催者は、数字を目立たせることで順序の基準を忘れさせた。三という記号を見せられれば、人は「三番目」という言葉まで記号に引きずられる。澪は説明中、黒いガラスに映った司会卓の時計が左右反転していることにも気づいていた。向こうの人物がこちらを正面から見ている証拠だった。
蘭は、説明中に主催者が「私から見て」と言いながら右手を上げた場面を思い出した。黒いガラスの影も右手を上げていたが、こちらからは左側に見えていた。視点の反転は最初から示されていたのだ。
一番扉の奥で緑灯が灯る。
やがて黒いガラスの向こうから、ゆっくり拍手が二度聞こえた。
「視点を指定したのは、私の失敗だった」
初めて主催者自身の声がした。仁と蘭の首輪が赤く明滅する中、澪の前だけ、次の廊下へ続く錠が外れた。