世界滅亡の囮が奪ったもの
囮兵ファニアは、魔王城の最下層で一人だけ立っていた。
勇者は胸を貫かれ、賢者は魔力を使い切り、聖女は気を失っている。対する不死王は、肉体を灰にされながら笑っていた。
「無駄だ。次の瞬間、余は完全な姿へ戻る」
ファニアは戦えない。敵の注意を引くためだけに雇われ、盾も持たされず、逃げ足だけを鍛えさせられた。勇者からは毎日、「死ぬ順番が一番の役目だ」と言われた。
彼女の技能も、誰も攻撃にしか使えないと思っていた。
【職業技能《標的強奪》:敵一体が次に選ぶ対象を、自分へ変更する。対象となる行為の種類は問わない。】
不死王の頭上に、巨大な魔法陣が開く。《王命再生》。魂も肉体も全盛期へ戻す、神代の自己復活術だ。術の対象欄には、不死王自身の真名が輝いている。
勇者が血を吐きながら叫んだ。
「逃げろ、ファニア! 復活したら全員殺される!」
彼女は逃げなかった。
囮とは、攻撃だけを奪う役ではない。
敵が選んだ“次の対象”なら、祝福でも治療でも構わない。説明文にそう書かれていたのに、誰も囮へ良いものが向く可能性を考えなかった。
ファニアは灰になりかけた不死王を指さした。
「あなたが次に選んだもの、私がもらう」
技能を発動した瞬間、魔法陣の中心から不死王の名が消え、ファニアの名へ変わった。
天井から降りた白い光が、傷だらけの彼女を包む。折れていた肋骨が戻り、裂けた肩が塞がり、使い潰されてきた古傷まで跡形なく消えた。
その隣で、再生先を失った不死王の灰が崩れる。
「待て。それは余の永遠だ」
「囮への報酬、今まで一度ももらってなかったから」
最後の灰が床へ落ちた。完全に回復したファニアは、倒れた三人を軽々と抱え起こす。不死王が千年独占した生命力は、まだ彼女の胸で燃えていた。
勇者は初めて、囮兵を見上げた。
聖女が目を覚ますと、ファニアの胸には不死王の紋章が白く反転していた。服従の印ではない。永遠の生命を誰のために使うか、自分で決められる所有印だった。勇者は分配袋を差し出したが、彼女はまず倒れた仲間の治療費を数えさせた。
【職業《囮兵》が上位職《災福強奪者》へ書き換わりました。】