九つ目の鼓動

戦闘が終わらないうちに、カドゥルの心臓は八度、砕けていた。

谷底では屍竜がまだ首をもたげている。翼を失い、腹を裂かれても、その喉には青い炎が渦巻いていた。背後の崖際では、槍兵オザナが折れた脚を抱えている。

「あと一撃だ」と悪魔ネフィラが耳の内側で囁いた。

契約は単純だった。人には不可能な一動作を借りるたび、次の鼓動が硝子になる。硝子の鼓動は胸の中で砕けるが、その破片が残る限り、死ぬことはない。

一度目で竜の尾を避け、二度目で崖を駆け上がり、三度目で翼骨を断った。八度目を使った今、胸には砕けた鐘のような痛みが詰まっている。息をするたび、破片が肺を引っかいた。

屍竜が炎を吐けば、オザナまで焼ける。

「九度目のあと、おれはどうなる」

「心臓がなくなるだけだ」

「死ぬのか」

「いいや。私が代わりに脈打つ」

カドゥルは笑った。選択ではなく、確認だった。

屍竜の顎が開く。彼は九つ目の不可能を願った。

時間が薄く伸びた。炎の粒が空中で止まり、彼の身体だけがその隙間を走る。鱗を踏み、牙へ飛び乗り、口内から剣を突き上げる。刃は腐った脳を貫き、竜の青い火が消えた。

直後、九つ目の鼓動が硝子になった。

胸の奥で、澄んだ音がした。

カドゥルは竜の頭から転げ落ちた。オザナが這ってきて、鎧を剥がす。胸には傷がない。ただ皮膚の下に、赤い硝子片が星座のように散っていた。

「聞こえるか。勝ったぞ」

彼は答えようとした。そのとき、空洞になった胸で何かが一度、ゆっくりと脈打った。

どくん。

黒い波が血管を走り、指先まで染める。二度目の脈で、瞳の色が金に変わった。三度目には、口元が自分の意志と違う形に吊り上がる。

「カドゥル?」

オザナが呼ぶと、彼の口から二つの声が重なって出た。

「その名は、八度目までの男のものだ」

胸の硝子片はもう鳴らない。代わりに悪魔の鼓動が、戦勝の太鼓のように規則正しく続いていた。

屍竜を倒して谷から帰った者は二人だったが、そのうち一人の心臓は、最初から人間のものではなかったことになった。