乾かない靴下

六月の朝、慶太はベランダに干した靴下を触った。

三日続きの雨で、どれも指先が冷たい。乾いているように見えて、つま先だけ湿っている。

今日は小学校の授業参観だった。娘の芙由から「絶対来て」と言われている。慶太は比較的ましな一足を選び、履いた瞬間に顔をしかめた。

校舎の廊下は保護者の濡れた傘で滑りやすく、古いワックスと雨の匂いが混じっていた。上履きへ履き替えても、靴下の湿り気が足の裏について回る。

教室では、子どもたちが「家の仕事」を発表していた。料理、洗濯、掃除。芙由の番になる。

「うちのお父さんは、洗濯物を裏返しのまま干します」

保護者が笑った。慶太も苦笑する。

「でも雨の日は、夜に扇風機をつけて、朝まで何回も向きを変えます。靴下のつま先が乾かないからです」

昨夜、眠る前に洗濯物を回したことまで見られていたらしい。

帰宅後、芙由は靴下を脱ぎ、洗面所へ放った。やはりつま先が濡れている。

「今日は私が向き変える」

二人で室内物干しの下に座り、靴下を裏返した。扇風機の風で布が揺れ、洗剤の匂いが部屋に広がる。

夕飯の頃には、慶太が履いた一足も乾いた。けれど温かい床の上で裸足のまま過ごした。

窓には雨粒が絶えず流れている。芙由は乾いた靴下を一組ずつ丸め、籠へ入れた。最後の一足のつま先を二人で確かめる。まだほんの少し冷たく、その冷たさが、今日一日分の雨を布の奥へ隠しているようだった。

次の雨の日、芙由は学校から友達を連れてきた。三人分の靴下を物干しへ吊り、扇風機の前で向きを変える。濡れた布は冷たいが、笑いながら触ると嫌ではなかった。慶太は生姜を少し入れた味噌汁を作り、乾くまでの夕飯にした。湯気と洗剤の匂いが混じる部屋で、芙由は参観日の発表をもう一度、今度は父の前だけで読み上げた。靴下は眠る前にすべて乾いた。

翌朝、籠の靴下はどれも日なたのように乾いていた。慶太は一足を裏返し、つま先へ鼻を近づける。洗剤の奥に、昨日の味噌汁と雨の教室の匂いが少しだけ残っていた。