乾燥機の羽休め
雨の夜、コインランドリーの乾燥機から、小さな羽の生えた娘が転がり出た。
髪は糸くずで白く、片方の羽が濡れて縮んでいる。
店番の女性がタオルを差し出すと、妖精は首を振った。
「人が誰かの帰りを待ちながら畳んだ布でなければ、羽は乾かないの」
店には女性しかいなかった。
夫と別居して三か月。高校生の息子は夫の家に残り、週末だけ来る約束だったが、その週も「部活がある」と断られた。
女性は、待っていると思われたくなくて、息子の寝具を押し入れへしまっていた。
妖精を椅子へ座らせ、客の忘れ物のタオルを畳んでみた。
羽は乾かない。
自分のシャツでも駄目だった。
「待ってないからね」
女性が言うと、妖精は、
「そういう人ほど、布を四角く畳む」
と笑った。
女性は腹を立て、乾燥機から息子の古いパーカーを取り出した。引っ越しの荷物へ紛れ、洗ったまま返せずにいた物だった。
袖を伸ばし、胸の絵柄を内側へ折る。
息子は畳み方が雑だと文句を言った。夫の家へ行く朝にも、同じことで喧嘩した。
パーカーを膝へ置くと、妖精の羽から湯気が上がった。
けれど半分しか乾かない。
「帰ってくるのを待っているだけじゃ足りない」
妖精は言った。
「帰らないかもしれない人に、場所を空けて畳むの」
女性は息子のベッドを出した。
シーツをかけ、枕元へ畳んだパーカーを置く。
帰宅を期待する準備ではない。来ない週にも、使える場所を荷物置き場にしないためだった。
羽はふわりと開いた。
妖精は礼として、乾燥機の底から片方の靴下を一枚拾い上げた。
息子が幼い頃に履いていた、小さな青い靴下だった。
なぜ今まで残っていたのか分からない。
「これは、待ってた?」
女性が尋ねる。
「布は待たない。持つ手が待つの」
妖精は換気窓から飛び去った。
翌朝、女性は息子へ写真を送った。
整えた部屋ではなく、畳んだパーカーだけ。
「洗ってあります。取りに来ても、送ってもいい」
返事は夜になって届いた。
「来月、そっちから大会へ行く。泊まっていい?」
女性はすぐ「もちろん」と打ち、消した。
代わりに、
「ベッドは空いてます」
と送った。
待つことを隠さず、帰るかどうかは相手に残す。
その距離なら、羽のない親子にも少しずつ乾かせた。