予約は午後七時に二件
【グループチャット:レストラン《葡萄時計》臨時対策室】
支配人:
本日十九時、窓際席にて麦倉惟央様の記念日予約が二件入っています。
新人・鞠乃:
同じお客様が二回入力したのでは?
支配人:
同行者名が違います。一件目は「乙葉様、交際三年」。二件目は「瑠璃果様、出会って百日」。
料理長:
数字まで具体的だな。
新人・鞠乃:
どうします?
支配人:
鉢合わせを避けます。一件目を窓際、二件目を個室へ。
給仕長:
惟央様から電話です。「二人とも赤い服なので間違えないで」と。
料理長:
避ける気がない。
新人・鞠乃:
私、最低な人にはスープを少しぬるくする主義です。
支配人:
職業倫理を守ってください。
十九時三分。
給仕長:
乙葉様到着。「彼、今日は大事な話があるって」と。
新人・鞠乃:
指輪ですかね。
十九時五分。
支配人:
瑠璃果様到着。同じことを言っています。
料理長:
スープをぬるくしてよい。
十九時七分。
新人・鞠乃:
惟央様が入り口で二人に見つかりました。
支配人:
会話を報告してください。
新人・鞠乃:
乙葉様「この人、誰?」
瑠璃果様「そちらこそ」
惟央様「落ち着いて。順番に説明する」
乙葉様「順番が必要な時点で終わりよ」
瑠璃果様「私には姉と別れたって言った」
乙葉様「私はその姉?」
惟央様「比喩だよ」
瑠璃果様「交際百日も?」
惟央様「営業日換算で」
乙葉様「三年は?」
惟央様「うるう年を除いて」
料理長:
理屈が弱い。
十九時十二分。
新人・鞠乃:
二人が同時に「どっちを選ぶの」と質問。
惟央様は「本当に大切なのは二人とも」と回答。
料理長:
デザートに塩を。
十九時十三分。
支配人:
待ってください。受付に三人目の赤い服の女性です。
新人・鞠乃:
「麦倉さんに呼ばれました。交際半年の柚妃です」と。
料理長:
鍋ごと塩を。
十九時十五分。
給仕長:
乙葉様、瑠璃果様、柚妃様が名刺を交換しました。三名とも「二股被害者交流会」の運営スタッフでした。
新人・鞠乃:
では今日の会食は?
支配人:
惟央様を講師に迎えた実地研修です。
料理長:
本人だけ知らない研修か。
十九時十七分。
新人・鞠乃:
惟央様が逃げました。
支配人:
会計は?
給仕長:
三件とも、予約者払いです。
料理長:
デザートを一つにまとめろ。皿に書く文字は決まった。
――「営業終了」。