二つの屋号で一輪

千早斐那と陶山岳生は、町でいちばん結婚してはいけない二人だった。

千早煙火と陶山火術。百年前、祭りの事故をどちらの責任にするかで争って以来、二つの花火屋は口も利かなかった。

ところが両家の跡取りは、高校の化学室で恋に落ちた。

「火薬の配合を盗みに来たんだろ」

「そっちの青、湿気ると緑になるじゃない」

「企業秘密だ」

「失敗まで秘密にするな」

喧嘩しながら八年付き合い、ついに二人は両家へ結婚を申し出た。

結果は、同じ言葉だった。

――どちらの屋号を消すつもりだ。

斐那が千早を継げば、陶山には岳生しかいない。岳生が陶山を継げば、千早には斐那しかいない。新しい屋号を作ろうにも、弟子たちは代々の技法を守るため首を縦に振らなかった。

夏祭りの前夜、二人は河川敷で最後の試し打ちをした。

斐那の筒から青い半円。

岳生の筒から金の半円。

空で重なれば一輪の菊になるはずが、風にずれて、いびつな二つの月になった。

「私たちみたい」

斐那が言う。

「失敗作扱いするな」

「じゃあ結婚する?」

「それを言うなよ」

岳生は導火線を土へ押しつけた。

「俺は陶山を終わらせられない」

「私も千早を終わらせられない」

「駆け落ちしたら、二人で普通の花火師になれる」

「普通の花火師になりたいんじゃない。千早の赤を、もっと遠くへ上げたい」

「俺も陶山の青を捨てたくない」

夢が同じだったから、同じ家には入れなかった。

「別れよう」

斐那が言うと、岳生はしばらく夜空を見た。

「次の祭りから、また敵同士か」

「手加減したら許さない」

「そっちこそ」

「新しい恋人ができても?」

「花火の出来で泣かせる」

「最低」

「知ってる」

祭り当日、二つの屋号は例年どおり別々の場所から打ち上げた。

千早の赤が先に開き、陶山の青が少し遅れて追う。

打ち合わせはしていない。それでも風を読み、互いの癖を知り尽くした二人の花火は、夜空の中央で一輪に重なった。

観客は新しい共同演目だと思い、大きな拍手を送った。

斐那と岳生は川の両岸で、それぞれ導火器を握っていた。

二人の家は一つにならなかった。

二人も一緒にはならなかった。

ただ、別れたあとも同じ空を競い合えることだけが、家柄に奪われなかった二人の未来だった。