二日目のカレーは別の味

 母が亡くなり、伯母と養子縁組をした翌日、八歳の娘はカレーを一口食べて言った。

「お母さんの味じゃない」

 伯母は、姉が残した料理ノートを見て作った。玉ねぎを四十分炒め、りんごを半分すりおろし、最後に牛乳を入れた。

 それでも違った。

「ごめん」

 伯母が言うと、娘は腹を立てた。

「謝ったら、お母さんの代わりになれると思ってる?」

 スプーンを置き、部屋へ閉じこもった。

 翌日、鍋の残りが食卓へ出た。

「また同じの?」

「二日目だから、昨日とは違う」

「お母さんのは、二日目がおいしかった」

「私のは?」

 娘は渋々食べた。昨日より辛く、じゃがいもは崩れすぎていた。

「やっぱり違う」

「そうだね」

 伯母は笑った。

「私は、あなたのお母さんと同じものは作れない」

「じゃあ、どうしてお母さんになる書類を書いたの」

「あなたのお母さんになるためじゃない。伯母さんのまま、あなたを一人にしないため」

 娘はその答えを好きになれなかった。ただ、嘘ではないと思った。

 それから毎月、二人はカレーを作った。

 娘が「もっと甘かった」と言えば蜂蜜を足し、伯母が「姉さんはそんな高い肉を買わない」と笑った。母の味へ近づいた月もあれば、遠ざかった月もあった。

 中学生になると、娘は辛口を好むようになった。伯母は甘口しか食べられず、鍋を二つに分けた。

「家族なのに別々?」

「味覚まで養子縁組はできません」

 高校卒業の日、娘は伯母へ新しい料理ノートを渡した。

 一ページ目には、二人で決めた分量が書いてある。玉ねぎ三個。りんごは入れない。辛口と甘口は鍋を分ける。翌日は一つの鍋へ合わせ、卵を落とす。

 題名は〈うちの二日目カレー〉

「お母さんのレシピは?」

「別のノートに残してある」

「混ぜないの?」

「混ぜたら、どっちの味も分からなくなるから」

 伯母は眼鏡を外し、目元を押さえた。

「それと、大学へ行っても月一回は帰ること」

「それ、養子縁組の条件に書いてない」

「今、追加しました」

「本人の同意が必要です」

 二人は笑った。

 母の味は戻らなかった。

 その代わり、二日目にしか出せない、二人の味が残った。