二脚目の背もたれ

高城脩平が八雲理市の部屋を訪ねたのは、借りたままのユニフォームを返すためだった。玄関には杖が立てかけてあり、台所では椅子が横倒しになっていた。

「また膝、やったのか」

「椅子が先に負けた」

理市は笑ったが、床から立ち上がるのに時間がかかった。高校のバスケット部で、脩平はポイントガード、理市は得点役だった。県大会の最後、脩平の速すぎるパスを追った理市は着地で靱帯を切った。見舞いに来るなと言われ、脩平は本当に行かなかった。

椅子の背もたれは、接合部が割れていた。脩平が工具を探すと、理市は流しの下を顎で示した。木工用接着剤と万力を出し、二人でずれた板を合わせる。理市が膝で押さえられない分、脩平が体重をかけた。

「パスもこれくらい待てばよかったな」

「今さらスロー再生すんな」

板は一度ずれた。接着剤が指に白くつき、脩平は舌打ちした。理市は濡れ布巾を差し出した。責める口調ではなかった。それがかえって苦しかった。

乾くまで座れないため、二人は床でコンビニ弁当を食べた。理市は自分の唐揚げを一つ、脩平の蓋へ置いた。高校時代、遠征の帰りにいつもしていたように。脩平は礼を言わず、代わりに漬物を返した。理市の膝には冷却材が巻かれていた。脩平は食べ終えると、言われる前に新しい保冷剤へ替えた。

窓際には、同じ型の椅子がもう一脚あった。そちらは傷一つない。

「一人暮らしなのに二脚か」

「壊れた方を捨てるつもりだった」

「じゃあ、直す必要なかっただろ」

理市は答えず、万力を少しだけ締め直した。事故の責任も、見舞いに行かなかった四年間も、接着剤では埋まらない。明日には脩平は別の町へ戻る予定だった。

帰ろうとすると、理市は返されたユニフォームを畳み、修理中の椅子の背へ掛けた。

「乾くまで触るな。明日の朝、外してくれ」

「俺が?」

「片手じゃ跡が残る」

寝具の場所を聞く前に、理市は押し入れから毛布を一枚放った。脩平は玄関に置いた鞄を、もう一度部屋の中へ運び入れた。二脚目の椅子は、食卓の反対側へまっすぐ向けられていた。