五つ星の初デート
藤代まどかが初デートの店へ入ると、支配人が腰を九十度に折った。
「藤代まどか様。お待ちしておりました」
「予約、通ってます?」
「もちろんです。お席も、お口も、万全に整えております」
「口?」
待っていた箕輪泰生が立ち上がった。
「すごい歓迎だね。常連なの?」
「初めて。会社では総務だし」
支配人は意味ありげにうなずいた。
「身分を伏せてのご来店ですね。承知しております」
「何を?」
前菜が運ばれた。まどかが一口食べ、「少し塩が強いかも」と言うと、料理長が厨房から飛んできた。
「星を一つ失う覚悟はできております!」
「失わないでください。塩を少し減らせば」
「寛大なお言葉!」
泰生が小声で尋ねた。
「本当に総務?」
「社員証、見せようか」
「表向きの?」
「表も裏も総務よ」
パンを落とすと、給仕が新しい籠を三つ持ってきた。水を頼めば、産地の違う五種類が並んだ。
「普通の水で」
「その一言に、華美を排した美学が」
「ただ喉が渇いただけです」
泰生はすっかり緊張し、ナイフを持つ手まで震えた。
「まどかさん、今日の僕は何点?」
「どうして採点される前提なの」
「会話、服装、食べ方。抜き打ち審査でしょ?」
「私はあなたとパスタを食べに来ただけ」
支配人が銀色の帳面を差し出した。
「率直な評価を一筆いただければ」
「だから私は――」
入口のベルが鳴った。白髪の男性が杖をつき、ゆっくり入ってきた。
「予約した藤代まどかです」
店内が止まった。支配人は帳面とまどかを交互に見た。
「藤代まどか様が……お二人?」
「同姓同名のようですね」と男性は笑った。「私は料理評論をしております」
まどかは社員証をテーブルへ置いた。
「私は総務です」
料理長が膝から崩れ、泰生はようやく息を吐いた。
「じゃあ、僕の点数は?」
「店員さんに流されすぎで減点」
「何点?」
「でも、最後まで逃げなかったから五つ星」
泰生は笑った。
評論家ではないほうの藤代まどかが、最初の星をつけた。