人狼は七時に帰る
町内会館で開かれた初心者向け人狼ゲームに、七十代の参加者が八人集まった。
最初の夜が始まる前、窓際の男性が宣言した。
「私は七時になったら消えます」
全員の視線が集まる。
進行役が尋ねた。
「役職の宣言ですか?」
「役職? まあ、役目はあります」
隣の女性が身を乗り出す。
「何をする役?」
「家へ帰る」
「“家へ帰る”は人狼用語で襲撃?」
「普通に帰宅だが」
「普通を装うのが一番怪しい」
ゲームが始まると、男性の何気ない発言がすべて疑われた。
「今日は冷えるな」
「夜になると強くなるアピール?」
「私は肉より魚が好きだ」
「肉を避けることで人間らしさを演出している」
「薬は六時半に飲む」
「変身を抑える薬かも」
男性は困って進行役を見る。
「これは随分、想像力を使う遊びだな」
「そこが醍醐味です」
「わしの血圧まで伏線になっとる」
占い師を名乗る女性が言った。
「窓際さんを占いました。白です」
別の男性が即座に反論する。
「かばったな。二人とも狼だ」
「白だから白と言ったの」
「人狼は白髪でも黒判定です」
「髪の話はしていません」
時計は六時五十分。
窓際の男性が上着を着ると、一同がざわついた。
「逃げる気だ」
「投票前に消える能力?」
「玄関へ向かうのが露骨すぎる」
「狼なら窓から行くのでは」
「窓際に座った理由がつながった!」
男性は靴を履きながら言った。
「七時のバスを逃すと、次は八時半だ」
参加者たちは顔を見合わせた。
「終バスを偽装したアリバイ?」
「時刻表まで準備している。計画的」
「町営バスをゲームへ巻き込まないでくれ」
投票の結果、男性は満票で追放された。
進行役がカードをめくる。
「村人です」
男性はカードをポケットへ入れた。
「ほら、白だったろう」
「でも七時に消えると」
「だから帰ると言った」
彼が会館を出ると、窓からバスが見えた。参加者全員が立ち上がり、本当に乗るか確認した。
男性は乗車口から手を振った。
残された七人は、次の昼を迎える前に時刻表を確認した。
その夜、最も恐れられた敵は終バスだった。