今のサイズをください

御厨帆乃香には、試着室で必ず一つ小さい服を着る癖があった。

入らないと分かっているファスナーを背中で止めようとし、息を吐き切り、鏡に映る脇腹を見つめる。買うためではない。太ったことを自分に知らせるための、月に一度の点検だった。

クローゼットには、その点検で買った服が三着ある。どれも値札がついたまま、「あと少し痩せたら」という期限のない約束をぶら下げていた。扉を開けるたび、服より先に失格の札が見える。

大学時代の友人の結婚式を翌週に控えた土曜、帆乃香は紺色のワンピースを二着持って試着室へ入った。片方は今のサイズ。もう片方は、五年前なら着られた数字だった。

先に小さい方へ腕を通す。布は肩で止まり、ファスナーは腰から上がらない。鏡の中の自分に、ほらね、と言う準備ができていた。

そのとき、床に置いたスマートフォンが震えた。結婚式の案内ではなく、宅配便の通知だった。生活は何も劇的に変わらず進んでいる。そのことが、なぜか可笑しかった。

帆乃香はファスナーを引っぱる手を離した。皮膚には赤い線がついている。小さいワンピースを脱ぎ、畳みもせず籠へ戻した。

今のサイズの方は、背中まで一度で閉まった。鏡の前で腹をへこませず、試着室の丸椅子に座る。立っているときだけ綺麗な服は、食事の席では苦しくなる。腕を上げ、屈み、深く息を吸った。布は身体に沿ったが、身体を責めなかった。

式では前菜もケーキも出る。友人の隣で笑い、席を立って写真を撮る。帆乃香はその一日を、ファスナーを気にする時間ではなく、友人を祝う時間にしたかった。鏡の数字より、その予定の方を初めて採用した。

カーテンを少し開け、店員に言った。

「こちらのサイズをください」

声を小さくしなかった。

会計後、帆乃香はいつもなら値札のサイズ部分だけをすぐ切り取る。けれど、その日はタグをつけたまま袋へ入れた。

帰りの電車で膝に置いた紙袋は、軽かった。中に入っているのは未来の身体への宿題ではなく、来週の自分が呼吸できる一着だった。