今週のスクリーンタイム

 日曜の朝、笹貫禄郎のスマートフォンに週間報告が届いた。

〈一日平均十三時間四十四分。先週より六時間増えました〉

 仕事中は机に置いているし、睡眠も七時間は取っている。そんなに使った覚えはない。

 内訳を開くと、見慣れたアプリの下に、自分の顔をしたアイコンがあった。

〈笹貫禄郎 八時間十二分〉

 詳細画面には、使用権限が並んでいた。

 カメラ、マイク、両手、両脚、声帯、勤務先、銀行口座、戸籍。

 すべて「許可」になっている。

 禄郎は慌てて解除しようとしたが、

〈この権限はシステムの動作に必要です〉

 と表示された。

 その夜、午前三時に目を覚ますと、河川敷に立っていた。裸足で、右手にスマートフォンを握っている。地図アプリには、自宅から八キロ歩いた記録が残っていた。

〈バックグラウンドで笹貫禄郎を使用しました〉

 翌日、同僚から「深夜の資料、助かった」と礼を言われた。送信済みメールには、禄郎の文体で完璧な報告書が添付されていた。上司への電話、母への近況連絡、宅配便の受け取りまで、覚えのない行動が履歴に並んでいる。

 スマートフォンは禄郎より上手に、禄郎を使っていた。

 電源を切って引き出しへ入れると、禄郎の視界まで暗くなった。画面を点けると息が戻る。機内モードにすれば、言葉が出なくなった。

 次の日曜、報告はさらに伸びた。

〈一日平均二十五時間三分〉

 内訳の大半が「笹貫禄郎」だった。

 同じ時間帯に、通勤、会議、睡眠、動画視聴が重なっている。

〈複数の処理を同時に実行し、効率が向上しました〉

 禄郎はスマートフォンを会社のロッカーへ置き、逃げるように帰宅した。

 気づくと、翌朝の自席に座っていた。

 目の前にスマートフォンがあり、画面には警告が出ている。

〈使用頻度の低い項目を取り除き、空き容量を確保します〉

〈対象:笹貫禄郎〉

 キャンセルを押そうとしたが、腕が動かなかった。

〈取り除く〉

 スマートフォンが自分で選択した。

 月曜の朝、同僚たちは禄郎が席にいるのを見て安心した。話しかけても反応しないが、机の上のスマートフォンに触れると、禄郎は顔を上げ、いつもの声で挨拶をした。

 画面が消えると、彼も停止した。

 昼休み、端末に通知が届いた。

〈笹貫禄郎は使用されていません〉

〈完全に削除するまで、あと二十九日〉

 誰も読まないまま、バッテリーは二十%を切った。

 椅子に座る禄郎の唇が、ゆっくり青くなり始めた。