他人同士を入れ替える
沢渡鈴臣は交換ボタンを叩き、自分の九には触れず、多気川弥生の二と瀬尾口柊吾の七を左右へ入れ替えた。
固定爪が閉じる。交換台の上で、九だけが最初の場所に静かに残った。
〈交換完了。最大数字、九。勝者、沢渡鈴臣〉
柊吾の顔から笑みが消えた。
壁に表示されていた規則は一つだけだった。
〈最初に交換ボタンを押した参加者は、場にある二枚のカードを一度交換する。直後、最大数字を持つ者を解放する〉
開始時、鈴臣は九、柊吾は七、弥生は二。ボタンを押せるのは最初の一人だけで、交換後すぐ判定される。
柊吾と弥生は、九を持つ鈴臣が絶対に先手を取れないと思っていた。ボタンを押せば、自分の九と誰かの札を替えなければならず、必ず弱くなる。だから二人は、鈴臣が迷っている間にどちらが九を奪うか、目配せで相談していた。
鈴臣はその相談が終わる前に、二人の札を交換した。
「自分のカードを含めろとは書いていない」
『交換者が当事者であることは当然です』
主催者の声が天井から響く。
鈴臣は交換台を指した。機械は二と七の位置変更を正式に受理し、九を最大値として保存している。
「僕は当事者だよ。二枚を選び、交換を実行した者だから」
柊吾が七へ手を伸ばすが、判定後の固定爪は開かない。弥生の前には七、柊吾の前には二。変わらなかったのは鈴臣の九だけだ。
「卑怯だ」と柊吾が吐く。
「君たちは僕の九を奪う相談をしていた。それは卑怯じゃないの?」
弥生が乾いた笑いを漏らした。
「私たち、交換する人のカードが動くものだと……」
「人が交換することと、その人の持ち物を交換することは別だ」
鈴臣の首輪が床へ落ちる。開いた出口の前で、彼は九を裏返した。裏には主催者の紋章と、「交換対象指定なし」という機械用注記が小さく印刷されていた。
「あなたたちは、主語を読ませず目的語を思い込ませたかった。でも、思い込んだのは自分たちの方だったね」
扉が閉じるまで、柊吾の二と弥生の七だけが、無意味に場所を替えたまま残っていた。