似た名前の白い袋

夕方の調剤薬局で、稲垣帆南は白い薬袋を患者へ渡す直前に、服用時刻の印字へ目を止めた。

〈朝食後、一錠〉。だが処方箋は〈就寝前、半錠〉だった。

後輩が棚から取った二つの薬は、名前が一文字違い、箱の配色もほとんど同じだった。片方はアレルギー薬、もう片方は血圧を下げる薬。袋の患者名は正しいのに、中身だけが違う。

患者は保育園の迎えがあると言い、時計を何度も見ている。待合室には咳をする子どもと、仕事帰りの人が並んでいた。管理薬剤師は袋をのぞき、「まだ渡していないなら、差し替えて終わりでいい」と小声で言った。

帆南は錠剤の刻印を確認し、交付を止めた。棚に残る同じ箱も数える。帳簿より一錠少ない。つまり、今日すでに別の誰かへ渡った可能性がある。

「この一袋だけの問題ではありません」

帆南は当日の処方を抽出し、同じ薬を受け取った三人へ連絡した。一人の袋から、やはり誤った錠剤が見つかった。服用前だった。

後輩は調剤台の端で唇を噛んだ。

「名前を見たつもりでした」

「見たつもりになる配置だった。あなたの目だけに安全を任せない」

帆南は二つの薬を別の棚へ分け、薬品名ではなく成分名と規格を読み上げて照合する手順へ変えた。袋を閉じる前にバーコードと錠剤刻印の両方を確認し、似た名称が出たときは画面に警告が残るよう設定を依頼した。

患者へは経緯を説明し、待たせたことを謝った。女性は正しい袋を受け取ると、「急いでいたから、私なら気づかなかった」と静かに言った。薬袋を鞄へしまう手は少し震えていた。帆南は、渡す前に止まったから軽い出来事なのではなく、渡す前でしか止められない重さがあると知った。

閉局後、管理薬剤師は、事故にならなかったのだから報告書は簡略でよいと言った。帆南は後輩の名だけを書いた下書きを閉じ、自分を確認責任者にした報告書を作り直した。

その送信先へ、以前から迷っていた医療安全室への異動希望も添付した。

帆南は二つの文書を同時に送信した。