偶数にならない花束
鷺ノ宮律は、結婚式の花を必ず奇数で数える。
純白のスーツに右手だけ青い手袋。バラが二十本届けば一本抜き、テーブルが十卓なら十一個目の小瓶をどこかへ置く。
「祝福は揃えなくていい」
そう言っては、進行表の対称を平気で崩した。
新人プランナーの逢坂すずが困ったのは、挙式三日前だった。新婦から、家族写真に姉を入れないでほしいと頼まれたのだ。
『独身の姉が中央にいると縁起が悪いって、向こうのお母さまが。本人には時間変更と伝えてください』
秘密にすることまで依頼のうちだという。すずは断りたい。しかし、式場にとって大切な顧客で、両家はすでに険悪だった。
律は青い手袋で一本ずつ白バラを数えながら聞いた。
「君は何を守りたい」
「お姉さんです。でも式も壊したくありません」
「なら、人ではなく構図を壊そう」
彼は集合写真を取りやめるとは言わなかった。最初に新郎新婦だけを撮り、次に一人ずつ大切な人が画面へ加わる方式を提案した。最後に全員が並ぶが、中央は空け、そこへ奇数本の花束を置く。
「誰が家族かを、立ち位置で格付けしない写真です」
両家への説明を律は自分で引き受けた。新郎の母が「普通ではない」と眉をひそめると、青い手を静かに上げる。
「普通を優先する契約はいただいておりません」
新婦は長い沈黙のあと、姉へ直接電話をした。二人の間に何があったか、すずは知らない。ただ当日、姉は誰より早く来て、十一本の白バラを抱えていた。
撮影前、すずはブートニアの棘で指を切った。律は自分の青い手袋を外し、彼女へ渡した。
「それ、進行を止める合図じゃないんですか」
「今日は違う」
律の右手には、古い切り傷が細く何本も走っていた。彼は素手で花束を持ち上げ、中央の空白へ置く。
「祝福は揃えなくていい。痛い役まで、一人に揃える必要もない」
式が始まる直前、すずは青い手袋をはめて扉の横に立った。
今度それを上げる時は、誰かを止めるためではなく、誰かの隣に立つと決めるためだ。