八着目のワンピース

押し入れの衣装ケースから、同じ薄青色が八回現れた。

透花は一着ずつハンガーに掛け、畳の上に並べた。丸襟、膝下丈、細いベルト。袖の長さだけが少し違う。高校の卒業祝い、就職祝い、従姉の結婚式。いつ渡された服かは、母が縫いつけた紙札に書いてあった。

「全部まだ着られるわよ」

窓際で新聞紙を束ねていた母が言った。家を売るための片づけなのに、母は服だけは減らそうとしない。

「着ないよ」

「透花はこういうのが一番きれいに見えるの。黒なんか着ると怖く見えるでしょう」

今日の透花は黒い作業着を着ていた。膝には埃の跡がつき、髪はひとつに縛っている。母は朝から三度、「昔のほうが素直だった」と言った。そのたび、八着の薄青色が増えたように見えた。

母は一番新しいワンピースを胸に当てた。

「次の法事に着ればいいじゃない」

「法事に行くかどうかも、その日に決める」

「家族なのに、そんな言い方」

透花は服を取り返さず、代わりに衣装ケースの底を探った。そこから赤いニットが出てきた。大学一年の冬、自分で初めて買った服だった。母に派手だと言われ、一度しか着なかった。虫食いの穴が裾に二つある。

「これは捨てるわね」

母が手を伸ばしたので、透花は赤いニットを抱えた。

「これは持って帰る」

「穴が開いてるのに?」

「直す。直せなかったら、私が捨てる」

八着のワンピースは、古着回収の袋へ入れた。母は三着目で口を挟み、五着目でため息をつき、八着目には何も言わなかった。袋の口を結ぶと、薄青色は白いビニールの向こうで一つの影になった。

母は裁縫箱を開け、赤い糸巻きを探し出した。

「直し方くらい、教えてあげる」

「必要になったら聞く。そのとき、教えて」

今すぐ従わせる言葉と、頼まれてから差し出す言葉は違う。母はしばらく糸巻きを握り、やがて玄関の靴箱の上に置いた。透花はそれを取らなかったが、捨てもしなかった。

帰り際、母が赤い袖をつまんだ。

「それを着て、今度見せに来るの?」

透花は袖を静かに取り戻した。

「見せるためには着ないよ」

玄関の鏡に、黒い作業着の自分と、腕に掛けた赤が映った。透花は母の選ばなかった色だけを持ち、外へ出た。