再生者はふたり

千種柊真の葬儀から七日目、妹の宵崎璃々に限定公開のURLが届いた。送信時刻は午前二時十三分。兄がマンションから落ちた時刻と同じだった。

タイトルは『ひとり用』。

再生数は、1。

イントロには、兄の古い携帯ゲーム機の起動音が使われていた。幼い頃、布団の中で交代しながら遊んだ音だ。薄いビートの奥で、柊真が笑う。

「ひとりで聴いて」

璃々はイヤホンを押し込んだ。兄は死ぬ前の一か月、誰かにアカウントを監視されていると言っていた。投稿前の曲が勝手に消え、璃々との会話まで義父に筒抜けになっていた。柊真は部屋の鍵を替えたが、慎吾は「家族に隠し事をするな」と怒鳴り、合鍵を作らせた。だが義父の黒部慎吾は、被害妄想だと片づけた。警察も遺書のような下書きを見つけ、転落を自殺と結論づけた。

画面のジャケットは真っ黒で、中央に小さな白い点が一つだけある。再生バーが進むにつれ、その点は玄関の覗き穴のように大きくなった。

Aメロは、兄妹しか知らない言葉でできていた。冷蔵庫のプリン。曲がった傘。階段の十三段目。どれも他人には意味のない、家の中の記憶だった。

「ひとりで聴いて。誰にも見せないで」

サビに入る直前、ゲームの効果音が三回鳴った。柊真が危険を知らせる時の合図だ。画面の片隅に、小さくログイン履歴が浮かぶ。

同時視聴者数、2。

璃々の指が止まった。このURLを知るのは、送信先の自分と、投稿した兄のアカウントだけ。兄の端末は警察が保管している。けれどクラウドのパスワードを知っていた人間が、一人いる。

廊下で床板が鳴った。

曲の最後、柊真の声が急に近くなる。マイクに唇を触れさせたような音で、最初と同じ言葉を囁いた。

「ひとりで聴いて」

その瞬間、コメント欄に兄のアカウントから文字が現れた。

〈ちゃんと、ひとりだよな?〉

寝室のドアノブが、ゆっくり下がる。

璃々はようやく理解した。兄の言葉は秘密を守れという願いではない。

扉の向こうにいる男が、彼女が本当にひとりか確かめるための言葉だった。