写真の人数を数えないこと
祖母の葬儀を終えた夜、鎧塚沙良は仏間で古いアルバムを整理していた。
表紙の裏には、祖母の字でこうあった。
〈家族写真の人数を数えないこと〉
最初の一枚は昭和二十三年の正月だった。曾祖父母と子どもたちが縁側に並んでいる。端に、白い喪服のような着物を着た若い女がいた。家族の誰にも似ていない。
次の写真にも女はいた。
七五三、結婚式、花見。年月が過ぎても年を取らず、いつも列の端からこちらを見ている。
沙良は母に尋ねた。
「あれは、写真守り」
母は線香の煙から目をそらした。
「家族が欠けないよう、代わりに写真へ入ってくれる人」
おかしな説明だった。
写真を年代順に並べると、女が現れた翌年には必ず家族の誰かが亡くなっている。しかも女は一枚ごとに中央へ近づき、代わりに死ぬ者が端へ移っていた。
祖母の最後の誕生日写真では、女は祖母の隣に座っていた。
祖母は写真の端で、半分だけ畳の暗がりへ消えている。
沙良は数えないようにした。
それでも目は勝手に一人、二人と追ってしまう。最後の集合写真は、今日の葬儀後に撮ったものだった。母、叔父、従姉妹たち、沙良。
人数が一人多い。
若い女は写っていなかった。
代わりに、沙良と母の間に祖母が立っていた。棺に納めた白装束のまま、笑っている。
写真の裏に鉛筆で文字が浮かんだ。
〈守り役を交代しました〉
母がアルバムを奪い取った。
「だから数えるなと言ったのに」
「何と交代したの」
母は答えず、仏壇の引き出しから小さな鏡を出した。鏡面には、写真の中にいた若い女が映っていた。
沙良と同じ顔だった。
「最初の写真の日、あの人も人数を数えたの。家族が全員そろっているか確かめたくて」
母は鏡を伏せた。
「数え終えた人が、次に欠ける家族の身代わりになる」
背後でシャッター音がした。
振り返ると、誰も触れていない沙良のスマートフォンが、仏間を撮影していた。
画面の中で、家族全員が祭壇の前に並んでいる。
沙良だけがいない。
列の端には、白い着物を着た若い女が立っていた。
今度は母が、指を折りながら人数を数えている。
「お母さん、やめて」
沙良は叫んだ。
けれど声は、アルバムの閉じた頁の向こうからしか聞こえなかった。