冬の露台に出ない日
新年の謁見式で、宮殿の露台には粉雪が吹き込んでいた。
侍女ミアベルは、寒さで指が白くなっても袖へ隠した。皇帝セグランの隣で祝旗を持つ役を断れば、平民のくせにと罰される。
背後から黒い外套が肩へ落ちた。
振り向くと、セグランが留め金を結んでいた。将軍の敗報には「処分せよ」としか答えない皇帝が、彼女の首へ金具が当たらないよう布を挟む。
「これは陛下の外套です」
「余は寒くない」
裏地には薄い温石が縫われていた。ミアベルが以前、「重い毛皮は肩が凝る」とこぼしたため、特別に軽く作らせたのだという。
式典官が鐘を鳴らす。
「陛下、露台へ。民衆が皇帝陛下と未来の皇妃を待っております」
ミアベルの足が止まった。未来の皇妃という発表も、露台に出ることも聞いていない。
「私は出たくありません」
式典官が耳元で囁く。
「一刻だけ耐えなさい。陛下の寵愛に報いるのです」
セグランがその言葉を聞いた。
「誰が耐えろと命じた」
「しかし、すでに十万人が」
「待たせろ」
皇帝はミアベルへ向き直る。
「暖炉の部屋へ戻るか。柱廊から式を見るか。式そのものを中止してもいい」
「柱廊から見たいです。人前には出ずに」
「分かった」
式典官は青ざめた。
「皇妃不在では吉兆になりません」
「皇妃ではない。ミアベルだ」
セグランは一人で露台へ出た。民衆がどよめく中、皇妃発表の巻物を持つ宰相からそれを取り上げ、雪へ投げる。
代わりに皇帝の声が都へ響いた。
「本日の婚約発表は行わない。ミアベルは望まぬ役を演じない」
柱廊の陰にいる彼女へ、一度だけ確かめる視線が向けられる。
柱廊には、砂糖を入れない温かな梨湯が用意された。ミアベルが甘すぎる飲み物を苦手とすることも、セグランは覚えていた。皇帝は露台へ向かう前、杯を彼女の手へ押しつけず、窓辺の台へ置く。
「飲むかは好きにしろ」
その言葉に、外套も飲み物も婚約の代価ではないのだと分かった。ミアベルは自分で杯を取り、柱の陰から旗が上がるのを見届けた。
「余の外套を受け取ったことを、余の妃になる同意と解釈する者は処罰する」