冷凍庫に昭和が眠っている

 祖母の冷凍庫には、日付の読めない包みが詰まっていた。

「これは捨てよう」

 孫娘が霜だらけの魚を持ち上げると、祖母は取り返した。

「まだ食べられる」

「いつの?」

「そのうち食べる日の」

 冷凍庫の奥から、正月の餅、半年前の食パン、何の肉か分からない袋が出てきた。

「電気代もかかるし、危ないよ」

「食べ物を捨てるほうが危ない」

 祖母は怒って台所を出た。

 数日後、冷凍庫が故障した。修理は翌日まで来ない。孫娘が家族へ連絡し、全員で中身を仕分けることになった。

 安全に食べられるもの。

 今日中に火を通すもの。

 傷んでいて捨てるしかないもの。

 祖母は、廃棄用の袋が膨らむたび顔を曇らせた。

「小さいころ、台風で道が切れてね」

 誰にともなく話し始めた。

「店に米も卵もなくなった。母親が最後の芋を五人へ分けた。食べ物が家にあると、それだけで安心した」

 孫娘は初めて、祖母の冷凍庫が食品庫ではなく、昔の不安を閉じ込める箱だったと知った。

「でも、食べられなくなるまで取っておいたら、結局なくなるよ」

「分かってる。頭ではね」

 その夜、食卓には妙な料理が並んだ。

 餅入りのスープ。

 パンを削って作った衣の揚げ物。

 冷凍果物の煮込み。

 家族は味を当てながら食べた。祖母は「これは去年の栗」と自慢し、全員に止められた。

 新しい冷凍庫へ入れるものには、孫娘が大きく日付を書いた。

 祖母はその横へ、別の文字を足した。

〈誰と食べるか〉

 魚には〈日曜、三人〉

 餅には〈孫が来た日〉

 食パンには〈朝、二枚まで〉

 月に一度、家族で〈冷凍庫の日〉を作った。古いものから食べ、もう安全でないものは、祖母自身が袋へ入れた。

「捨てても、罰は当たらない?」

「食べ物を粗末にしたんじゃない。長く置きすぎたことを次に直すんだよ」

 祖母はうなずき、空いた棚を何度も開け閉めした。

「少ないと不安?」

「少し。でも、次に誰と食べるか書いてあるからね」

 冷凍庫から昭和の不安がすべて消えたわけではない。

 その代わり、空いた場所へ、これから一緒に食べる予定が入るようになった。