処刑台の影豹に朝食を
罪人を噛み砕く影豹が、王宮の処刑台で鎖を鳴らしていた。
黒い毛並みは光を吸い、金の瞳だけが宙に浮いて見える。貴族たちは観覧席へ逃げ、刑吏は震えながら大斧を構えた。檻が壊れたのだ。
下働きのガドは、配膳車を押したまま立ち止まった。
影豹は人を見ていない。銀盆に載った焼き肉だけを見ていた。しかも腹が鳴るたび、恥じるように鼻先を前足で隠している。
「三日、餌をやっていないな」
ガドが刑吏へ尋ねると、男は目を逸らした。公開処刑の日に獰猛さを増すため、断食させる決まりらしい。
「それで暴れたら、魔獣の本性だと言うのか」
答えを待たず、ガドは銀盆を床に置いた。影豹が唸り、鎖の影が蛇のようにうねる。周囲から「食われるぞ」と悲鳴が飛んだ。
ガドは焼き肉を自分で一口かじった。
「毒はない。急ぐな。喉につかえる」
影豹は近づき、彼の顔のすぐ前で息を吐いた。冬の地下牢の匂いがした。牙はガドの首ではなく、肉だけを慎重につまむ。噛まずに飲み込もうとしたので、ガドは二枚目を小さく裂いた。
一切れずつ、手のひらから食べさせる。最後に水差しを傾けると、影豹は舌を伸ばし、こぼれた水まで石床から舐め取った。
空腹が満ちるにつれ、盛り上がっていた背がゆるむ。ガドは首輪の内側に赤い擦り傷を見つけた。革紐を挟み、鎖が直接触れないよう結び直す。擦れた皮膚へ厨房の火傷薬を薄く塗ると、影豹は初めて目を閉じた。誰かに触れられながら眠気を見せることさえ、これまで許されなかったのだろう。
影豹は突然、彼の胸へ額を押しつけた。黒い霧が渦巻き、ガドの粗末な作業着に銀色の爪痕が三本浮かぶ。
宮廷魔術師が席から転げ落ちた。
「王家でも結べなかった影の盟約だ」
ガドには盟約より、影豹がもう腹を空かせないことのほうが大事だった。
「朝食係なら引き受ける。処刑係は断る」
そう言うと影豹は処刑台を降り、ガドの足元へ丸くなった。光を吸う黒毛は撫でれば絹より滑らかで、膝に載った顎は大鍋ほど重い。けれどその奥から伝わる体温は、夜明け前の厨房の炉火のように静かで、頼もしかった。