北風を割る石壁

高原のネーヴァ集落では、北風が吹くたび家の戸が雪に埋まった。老人の家ほど掘り出しが遅れ、昨冬は朝まで外へ出られない家が三軒あった。

領主代理として来たヴェナは、立派な外周壁ではなく、集落の北側に穴の空いた石壁を造ると言った。

「風を止めると、壁の内側へ雪が落ちます。細い隙間で勢いだけを砕きます」

石工バシュは図面を見て眉を寄せた。

「変な壁だ。しかも、また全戸から同じ税を取るのか」

「取りません」

ヴェナは道路沿いに長い紙を張った。北面の間口一間につき銅貨二枚。倉だけの土地は一枚。壁から外れ、風除けの効果をほとんど受けない南端の三戸は維持費だけでよい。作業一日は銅貨二枚分として相殺し、石を運べない者は温かい飲み物を一日分用意すれば半日分と数える。

計算の根拠も、壁が守る範囲も、赤い線で地図に示した。

「誰の家だから高い、ではなく、どれだけ風を受けなくなるかで決めます」

最初に名札を作業欄へ掛けたのは、もっとも負担の大きい宿屋だった。客室の戸を毎朝掘る苦労を知っていたからだ。南端の猟師も、税は少ないまま橇を出した。

「俺の家は守られんが、診療所へ行く道は守られる」

石壁は胸ほどの高さで、等間隔に縦の穴を持った。豪華な胸壁も領主の紋章もない。最後の石を置いた日、会計板には余り銅貨三枚と記され、それは全員の前で除雪用の鉄鋤一本に替えられた。

工事の途中、住民は板切れで小さな模型を作り、粉雪を投げて穴の幅を試した。石工だけに任せず、実際に戸を掘ってきた老人の意見で中央の穴を指一本分広げた。ヴェナは変更後の石数と費用もすぐ紙へ書き足した。『図面より暮らしている人のほうが風を知っています』。その一言で、見物していた者まで石運びの札を取った。

その夜、北風が唸った。雪煙は壁へ突っ込み、細い穴から白い糸になって抜け、集落の手前で力なく落ちた。

朝、老人たちの戸は最初から開いた。

バシュが壁の中央に石板をはめる。刻まれていたのは領主名ではない。

――北風は、ここで分け合う。

その下を、焼きたてのパンを載せた橇が初めて止まらずに通り抜けた。